❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第6章 人酒を飲む、酒酒を飲む、酒人を飲む
本当は米粉で作るパンに挑戦したのだが、発酵が上手く行かない上、やはりふくらし粉が無いと中々思うように出来ない為に断念し、途中でレシピを変えたのが今回のチヂミもどきである。ちなみにチヂミの具材には家臣が山で採って来てくれたニラの他にも、家康が多く漬け過ぎたからと持ってきてくれた唐辛子風味の漬物を細かく刻んだものが入っている。
「おつまみも食べてくださいね。夕餉、食べてないですし」
「ああ。…これは初めて見る料理だな。米粉を使ったのか」
云わばこの晩酌が二人の夕餉代わりだ。空きっ腹で酒は良くないからと肴を光秀に勧めると、鷹揚に彼が頷いて膳へ意識を向ける。視線は平皿に盛り付けられたチヂミに注がれていて、一口大に切られている様を除けば、平たい大きなおやきのような印象を受けた。米粉を用いた事は生地の感じを見て理解出来たらしい。光秀の関心が寄せられた事へ嬉しそうにはにかみ、凪が頷く。
「はい、これはチヂミっていう料理なんですよ。このたれを軽くつけて食べます」
「ほう…?如何にも家康が好みそうな色合いだ」
「ふふ、唐辛子も入ってるので、そうかもですね。胡麻油があれば完璧だったんですけど……」
生憎と乱世に胡麻油なるものは存在しない。よって、タレもあくまでもなんちゃって風味である。家康に分けてもらった唐辛子が実に役立ってくれた。
(胡麻油、どうにかして作れないかなあ。胡麻はあるから不可能じゃなさそうだけど……政宗に相談する案件かも?)
五百年後の現代ならば当たり前に存在する調味料も乱世では未知のものか、あるいは希少品だ。無いなら作る、という発想を持つ現代人仲間の佐助に倣い、ここはひとつ開発を試みるのも悪くないなどと考えていると、不意に凪の唇に味噌マヨネーズがついた棒状の冷えた大根が近付けられた。
「んっ……!?」
「久々に二人きりのひと時を楽しめる夜だというのに、余所事を考えるとは悪い子だ」
驚いて正面を見ると、光秀が少し意地の悪い表情で双眸を眇めている。