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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



「キチョー、フク!」

福の為に土産を買って来てくれるとは思わなかったが、おそらく凪が気を回してくれたのだろう。乱世では中々手に入れる事が難しいドライフルーツが詰まった袋へ視線を向け、帰蝶が小鳥へ声をかける。

「お前にも後で凪達からもらった土産の乾燥果物をやろう」
「オタカラ!」
「……そんな言葉、一体誰に教わった」

またしても教えた覚えの無い単語を愛らしいソプラノで発する小鳥へ、浅い溜息を漏らした。じりじりと微かに音を立てて燃えるランプの明かりを見つめながら、帰蝶が残った煎餅の欠片を食べると、淡い色の外套を揺らして静かに立ち上がる。

「まさか俺の生まれ日を祝いたいと言い出すとはな」
「キチョー?」

執務机の背後にある窓へ身を添わせ、何気なしに月が昇る窓の外を見た。今頃凪達は宿に着いた頃合いだろうか。商館へ泊まらせても良かったが、荷物をすべて宿へ置いて来たからと遠慮されたのだ。予め訪れるならば、商館へ泊まる形で手配しておくべきだったと今更考えたところで後の祭りである。

そこまで考えて、そうまでして凪や子供達と過ごす理由を作ろうとしている自身に気付き、内心苦々しく笑った。光秀が言った、節操なしという単語もあながち間違いではないかもしれない。無論、誰でもいいという意味では断じてないが。

「キチョー、フヨウ、スキ!」
「……ああ」

未だ何故か凪の事を芙蓉と認識したままである福の、明け透けな物言いを躊躇いなく肯定する。どの道、この部屋にはそれを咎める者など誰一人いやしない。窓際から離れてローテーブルへ戻り、福への土産の品を開けようと、その上に置いたままであった袋へ手を伸ばした。その瞬間、凪と光秀が座っていた側のソファーへ、小さな手ぬぐい────五百年後的に言えば、ハンカチのようなものが残されている事に気付いた。

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