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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



「凪が忘れて行ったのか」

色合いや刺繍の細やかさを見る限り、女物だという事が分かるそれは凪のものだろう。柔らかな生地のそれを拾い上げた瞬間、ふわりと冴え冴えした薫物の香りが鼻孔をくすぐった。

それは自らの従兄弟と同じもので、そして彼等の子供達がまとうそれとも同じ香りだ。安土の光秀の御殿を訪ねた際にも、通されるあの男の自室ですっかり嗅ぎ慣れた香りを手ぬぐいから感じ、帰蝶が目元を僅かに和らげる。香りの強いものを好まない帰蝶も、この薫物は嫌いではない。

「……凪」

気付けば唇の隙間から愛しい女の名が溢れ落ちた。そうして改めて気付かされる。凪達がほぼ半日近く居た執務室内には、薫物と同じ香りが満ちていた。それが過ごした穏やかで優しいひとときの名残を思わせ、口元をそっと綻ばせる。

「祝いの返礼は何を用意するか」

来月、自身の生まれ日を、愛しい女とその家族が祝ってくれるという。例え想いは届かずとも、子供や夫に囲まれた幸せな姿をこの目で見る事が出来る。それだけでも過ちを繰り返したこの身には、過ぎたるもののように思えた。

手ぬぐいは次に顔を合わせた時に、花を添えて返すとしよう。異国の花も珍しくて悪くはないが、時には日ノ本で咲く花も良いかもしれない。

そんな事を考えながら帰蝶が小さな手ぬぐいを机の引き出しへ、そっと大切そうに仕舞い込む。そうして室内に満ちる幸せの残り香を感じながらオタカラを待ち侘びる福の為、ドライフルーツの袋をそっと開けたのだった。





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