❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
乱世ではさすがに生クリームなどの類いは入手出来ない。代わりにホットケーキを何枚か重ねて高さを出したものを、凪が誕生日ケーキとして出している。幼子がご機嫌で声を上げれば、光臣もそれに乗っかるように笑みを浮かべた。
「私もお祝いされるのも、するのも好きです。そうだ!来月の生まれ日、帰蝶さんさえ良ければ祝わせてもらえませんか?」
「きちょーのうまれび、ときもおいわい、する!」
「いいですね…!ただ予定とかの問題もあるでしょうけど……」
凪が唐突に提案したそれへ、光鴇が満面の笑みで同意する。小さな拳を握ってえいっと天井に向かい突き上げるその横で、光臣も明るい声色で頷いた。最後にちらりと窺うよう正面に座る父を見れば、凪も光秀に向かってねだるように首を傾げる。
「光秀さん、駄目ですか……?」
「ちちうえ、おねがいっ」
祝われる当人の意思より先に、一家の大黒柱へ意思確認に出た家族をそれぞれ見やり、光秀が肩を竦めて浅い吐息を零す。自身を見つめてくる凪の頭を優しくひと撫でした後、男が穏やかな声を発した。
「お前達にそうまでして頼まれては、是と言わない訳にもいかないだろう」
「わーい!きちょーおたんじょうびおめでと!」
「と、鴇くんさすがにちょっとそれは早過ぎだよ……!」
「ん?」
「オメデト!」
「福も早いよ……!」
「フク!」
光秀の色好い返事を耳にし、光鴇が嬉しそうに声を上げる。祝いたい気持ちは分からなくもないが、まだひと月は先の事である。完全にフライングしている幼子と小鳥へ凪が突っ込んだ後、帰蝶を改めて窺った。
「って、勝手に盛り上がっちゃったんですけど……帰蝶さんはご迷惑とかじゃないですか?」
「……いや」
とんとん拍子に話が決まった事へ、些か面食らっていた帰蝶が微かに眸を瞬かせ、短い否定を紡ぐ。これまで、何処から聞きつけたのやら商談相手やら、堺の商家の娘達やらから祝いと称した品々や言葉を貰った事はある。