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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



してやったりといった様子の光秀は、妻の手ずから従兄弟が菓子を食べる結果にならず、実に満足げであった。基本的に誰に対しても人を食ったような態度を取る事の多い光秀だが、帰蝶は幼い頃から見知っている従兄弟同士という事もあってか、他よりもある意味気安い対応に思える。一度は敢えて諦めた風に見せかけ、結局凪が他の男相手へ甲斐甲斐しくする様を看過出来なかったという訳だ。

「ちちうえがきちょーにあーんってしたの?なかよし?」
「……お前の目にはそう映っているのか?鴇」
「うん」
「ならば今はそれでいい」

無垢で純粋な子供の眼差しの前には、大人同士の些細な矜持や事情など無いに等しい。海の向こうの外国から仕入れるチーズとは少々異なるその味わいは、光秀の手から不本意にも食べたという事を除けば、存外悪くはないものに思えた。

「そういえば、来月は帰蝶さんの生まれ日でしたよね」

室内に流れる何とも言い難い雰囲気を払拭する為、光臣が帰蝶へ振り返る。光秀の生まれ日からそこそこの日数が経った為、およそひと月もすれば次は帰蝶の生まれ日だ。少年に思いがけぬ話題を振られ、帰蝶が微かに萌黄の眼を瞠った。

「ああ、そういえばそうだったか」
「ええっ……そんな他人事みたいな……」
「自分の生まれ日など、さして気にかけた事もなかったのでな」

光臣に言われるまで、まるで気付かなかったとでも言わんばかりに帰蝶が相槌を打つ。光秀も凪と恋仲になり、彼女が毎年祝ってくれるようになるまでは、然程これといった感慨はなかった。今ではすっかり毎年家族それぞれの誕生日を祝うというのが習慣づいているとあり、光秀にとっても生まれ日という単なる日付が、特別なものと思えるようになったのだった。

「とき、うまれび、すき。ははうえがほっとけーきつくってくれる!」
「俺も好きですよ、生まれ日。自分のだけじゃなくて、他の人のを祝うのも」

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