❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
彼女の面持ちが明るい様を見て取り、男が片手で凪の腰をそっと抱き寄せる。
「もう……光秀さんはお煎餅食べないんですか?」
「生憎と腹が減っていなくてな」
「じゃあ私が食べてるの、はんぶんこしましょう。ちなみに私のはチーズ味です」
「ほう?」
一人だけ煎餅を選ばなかった光秀の、いつもの文句を耳にして凪が袋の中で米菓子を割った。ぱきっと小気味良い音を響かせ、煎餅を一口大にすると一欠片つまんで男の口元へ運ぶ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
彼女の指先から淡黄色の煎餅の欠片を食べ、舌先で唇をぺろりと軽く舐めた。ぱり、と微かな音が傍で響き、凪がつい笑みを零す。
「ふふ、なんだか可愛いですね」
「やれやれ……お前が言う可愛いの基準は些か変わっているらしい」
煎餅の欠片を光秀が食べたというだけで可愛く思えてしまうなど、それこそどうかしているとも思うのだが、可愛いものは仕方ない。肩を竦めて浅い嘆息混じりに光秀が言えば、凪がもっともらしい事をそれっぽく言って反論した。
「そんな事ないですよ、割りと人並みです。あと、そういう基準は千差万別なので」
「なるほど、俺がお前や子らが可愛いと思う気持ちと、そう変わらないという事か」
「そんな感じです」
光秀が凪の持つ煎餅の袋からひとつ欠片をつまみ、それを彼女の唇へ運ぶ。とん、と柔らかな唇の表面に菓子が当たり、凪が自然と欠片を食べた。幸せそうな二人の姿を正面から静かに見つめていた帰蝶が、相変わらず膝上に乗ってご機嫌にざらめ煎餅を食べている子供の頭をひと撫でした後、おもむろに口を開く。
「凪」
「はい?」
帰蝶の方へ振り返り、彼女が双眸を瞬かせた。そうして凪が手に持っている煎餅の欠片には一瞥もくれる事なく、言葉を続ける。
「俺にも一口くれないか」