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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



欠片を長い指先でつまんだ帰蝶がそれを口内へ入れている様を見やり、光臣が首を傾げる。数種類に渡る煎餅の中から彼が選んだのはオーソドックスな醤油味であり、咀嚼している様子は何処となく嬉しそうだ。

「ああ、塩と醤油がもっとも煎餅の味を惹き立てるからな」
「あにうえのおせんべ、なにあじ?」
「俺のは胡麻味だ。お前はざらめだろう、鴇」

ぽりぽり、と小気味良い音を立てながら幼子が兄に問う。光臣が手にしているのは黒胡麻たっぷりの胡麻煎餅であり味わいは勿論の事、風味がとても良い。弟が手にしている、細やかなざらめの粒がたっぷりついた煎餅の欠片を見て兄が声をかければ、光鴇が自慢げに言ってつまんだ欠片を帰蝶の口元へ近づける。

「うん、ときのおせんべ、あまいよ。きちょー、あーん」

何の憚りもなく自らへ煎餅を食べさせようとして来る子供を前に、帰蝶が若干面食らった様子で目を瞠る。振り返って大きな猫目を期待と共に向けてくる幼子の姿が愛しい面影と重なり、薄く唇を開いて食べた。

「……確かにざらめも悪くはない」
「じゃあ帰蝶さん、せっかくなので胡麻もどうぞ」
「その押しの強さは一体誰譲りだ?臣」
「さあ、両方かもしれません」

弟と同じく煎餅の欠片を手にし、光臣が帰蝶の唇へ近づける。何処となく悪戯っぽい金色の双眸は父親そっくりだが、同時に母親の面影も感じさせた。ほんのりと唇を綻ばせながら帰蝶が問えば、光臣が楽しそうに告げる。

「二人共、すっかり帰蝶さんに夢中ですね」
「そのようだ。では俺も今の内に可愛い妻を独り占めするとしよう」

光臣が差し出した胡麻煎餅を帰蝶が手ずから食べた様を見て、凪がくすくすと小さな笑い声を漏らした。度々顔を合わせている所為もあるが、二人の息子達は帰蝶によく懐いている。その穏やかで優しい光景を目にする度、深い安堵が押し寄せてくる気がして、凪が光秀を振り仰いだ。

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