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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



家族旅行の話題になれば、光鴇が膝上で軽く振り返りつつ、身振り手振りで実体験を伝えた。

「とき、きからおちたひでよし、みてきた!」
「木から落ちた豊臣秀吉……?あちらの世に行ってまで猿山を見に行くとは物好きだな」

現代家族旅行において、光鴇の中でもっとも印象深かったのはやはりパンダだったのだろうか。いの一番に出て来た感想がそれだった為、凪がつい苦笑を零す。帰蝶が些か意外そうに眸を瞠っている様を目にし、光秀が肩を揺らして笑いながら指摘した。

「いや、ぱんだとやらの事だ」
「ぱんだという生き物の名が、ひでよしさんだったんですよ」
「動物園か」

言葉足らずな弟に代わり、光臣が補足を加えるとすぐに帰蝶も合点がいったらしい。さすがに五百年後の知識が大まかある所為か、話が速い。

「しらないどーぶつ、いっぱいいた!みっただもいたよ」
「ちなみにみつたださんと言う名前のチンチラです」
「名付けの基準がいまいち不明な動物園だな」

同じ従兄弟である光忠の名を出すと、今度は凪が補足した。ひでよしやらみつただやら、聞き覚えのある名ばかりが連ねられる動物園のコンセプトがいまいち解せないと、帰蝶が淡々とした調子で感想を漏らす。

ともあれ子供達の明るい表情を見るに、五百年後の世の家族旅行は有意義なものだったのだという事がありありと窺えた。戦のない平和な世、利便性に富んだ豊かな世。同じ人という生き物の間に一部の例外を除き、生まれながらの身分というものが存在しない世が素晴らしく、希望に溢れたものに映ったのならば言う事はない。

(変わらぬ平穏が五百年後の世にあったのならば、今俺達が進んでいる道は誤りではないのだろう)

帰蝶自身、ワームホールの観測や計算の方法を忘れた訳ではないが、自ら進んであちらの世へ行く事はなかった。だが、笑顔で思い出話を語る子供達を、優しく見守る凪が生まれ育った世が、暖かな希望に溢れた世のままであるというならば、己の選択を少なからず誇れるだろう。

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