❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
凪が嬉しそうに笑った様を、愛おしいものを見るような眼差しで見つめる帰蝶へ、光鴇がカップをテーブルに戻しながら淡い色の外套を軽く掴み、くいっと引っ張りつつねだった。
「とき、きちょーのおひざ、のる」
「ならばこちらへ」
「わーい!」
帰蝶が幼子の身体を軽々抱き上げると、組んでいた脚を解いて膝の上に光鴇を座らせる。ぷらんとぶら下がった子供の両足が何とも言えず可愛らしい。帰蝶の胸へ軽く背を預ける体勢となった光鴇が、ご満悦な様子でにこにこと笑った。
「鴇がすみません、帰蝶さん」
「お前が謝る事は何もない。こうして鴇を乗せていれば、お前にも手が届く」
我儘放題な弟に対し、光臣が申し訳なさそうに眉尻を下げる。それに対して帰蝶が口元へ笑みを浮かべ、片手を伸ばした。光秀によく似た銀色の長い髪、ふんわりと手触りの良いそれを優しく撫でやられると、少年が些か気恥ずかしそうに視線を膝元へ投げる。
(ああやって一緒にくっついてるの、可愛いなあ)
帰蝶と二人の息子達、心癒される光景を前にして凪がほっこり笑みを浮かべていると、光秀が持ち込んだ包みを自らの膝上で解き始めた。城勤めの者達や武将達にも様々な土産の品を買って来たが、帰蝶自身が五百年後の未来を一度体験しているという事もあり、ある意味一番土産選びに苦心したと言っても過言ではない。
包みの中身が垣間見えた事に、帰蝶がふと萌黄色の双眸を瞠った。南蛮貿易によって日ノ本の中に現代でも馴染みのある品々が少しずつ増えて来たとはいえ、近代のそれに近付くのは程遠い。光秀の膝上へ広げられたものが明らかに乱世のものでない事は一目瞭然だ。仄かに驚いた色を宿し、帰蝶が凪や光秀を見る。
「まさか五百年後の世へ行ったのか」
「はい、光秀さんの誕生日祝いに、家族で旅行に行ったんです」
凪が笑顔で答えると、帰蝶が納得した様子で頷いた。五百年後への嫌悪感は今ではすっかり無くなったらしい帰蝶の姿を改めて目にすると、凪が内心で安堵を零す。