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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



ちなみに、紅茶を淹れた当の本人はまったくもって涼しい顔でカップを優雅に傾けている。

「帰蝶さん、これもしかして薔薇の花びらですか?」
「ああ、ローズティーというフランスから取り寄せた茶葉だ。時期とは少々外れているが、香りを楽しむには十分だろう」
「はい、凄くいい香りです。それにローズヒップってビタミンもめちゃくちゃ豊富でお肌にいいんですよね」

ローズティーとはおそらく、かのクレオパトラも美容の為に飲んでいたと言う、美肌効果が高いと言われる紅茶の事であろう。薔薇独特の香り高い紅茶は、普段帰蝶が淹れてくれるそれとはまた違う、格別な芳香を漂わせている。透明感がある琥珀色の液体の表面に、淡い色の花びらが浮いている様がまた女性らしさを思わせ、可愛らしい。帰蝶の細やかな気遣いに凪の唇が綻んだ。

「お前の愛らしさの前には不要な成分ではあるが、かと言って男に出すような茶葉でもないのでな」
「帰蝶さんも光秀さんもお肌つるつるですもんね。羨ましい……」

何年経っても衰えるどころか冴え渡り、磨きがかかる美貌を持つ従兄弟二人の顔を見比べ、凪が心底羨ましそうに溜息を漏らす。帰蝶が言いたいのはまったくそういう意味ではないのだが、割りと顔を合わせる度に甘やかな言葉を投げかけられている所為で、凪にもある種の耐性が出来たと言うべきか。さらりと臆面もなく彼女を愛でる言葉を投げかけた油断ならない従兄弟を一瞥した後、光秀が隣に座る妻の頬を指の背でする、と撫でた。

「俺にとってはお前の肌こそ、触れずにはいられないものだが」
「す、すべすべつるつるお肌な人にそんな事言われても、複雑なんですけど……」
「そう拗ねるな、所詮お前の柔肌の前では足元にも及ばないものだ」
「う……またそういうずるい事言う……」

甘く潤った低い声が鼓膜を間近で揺さぶり、凪が照れ隠しを兼ねて些か複雑そうな表情を浮かべる。節立ったしなやかな指が肌を撫でる度、未だにどきどきと胸が高鳴るのはもはや重症というべきか。

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