❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「行儀が悪いと叱られるぞ」
「ワルイコ!」
まるで人の会話を理解しているようなタイミングで福が口を挟むと、悪い子扱いの嫌いな光鴇が眉間に皺を刻んでぴたりと動きを止める。
「とき、わるいこちがう」
「案外効果はてきめんだな……」
「フク!」
小鳥に言われた所為か、すっかり大人しくなった弟の姿を見て光臣がいっそ感心した様子で呟く中、福が心なしか自慢気に自身の名を口にした。程なく、飲み物の支度が出来たらしい帰蝶が、白いトレーにカップを人数分置いてソファーに戻って来る。カップの縁に金色が施されている上品な陶器が、静かな音を立ててそれぞれの前へ置かれた。
子供達二人はココアであり、大人三人は紅茶だ。薄っすらと白い湯気の立つ暖かなそこから、紅茶独特の品の良い香りと、そしてココアの甘い香りが立ち上っている。
「ここあ、いいにおい!」
「ありがとうございます、帰蝶さん」
「礼には及ばない。二人共、舌を火傷しないよう気をつけて飲め」
凪同様、よく鼻が利く息子達二人が、立ち上る甘い香りを前にして嬉しそうに表情を綻ばせた。光鴇の隣へ腰を下ろした帰蝶が長い脚をすらりと組み、背凭れへ軽く身を預ける。光鴇は両手で、光臣は片手でそれぞれカップを手にすると、軽く息を吹きかけた後でそれへ口をつけた。子供達がすぐ飲めるよう、適度な温度に調整してくれたのだろう。帰蝶が二人の息子達を見る眼差しは柔らかく、それを見て凪も笑みを浮かべた後、意識を目の前のティーカップへ落とした。
(……あれ?)
カップの中身を見て、凪が微かに双眸を瞬かせる。澄んだ琥珀色の液体の中に、淡い桃色の花びらが数枚浮いていた。他の香りと混ざって最初こそ分からなかったが、ココアを飲んでいる息子達はともかく、凪の紅茶だけ香りがまったく異なる。彼女の反応を目にして光秀も中身に気付き、薄っすら愛らしく染まった花びらの存在に金色の双眸を眇めた。