❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
その瞬間、隣からひんやりした大きな手が伸びて来て、凪の頬をするりと撫でた。
「他の男の背を熱心に見つめるとは、感心しないな」
「そ、そんなんじゃないですよ……!」
「フヨウ、ワルイコ!」
隣から艶めいた眼差しが流され、凪が慌てて首を振る。その瞬間、鳥籠の中から愛らしい声が響いてうっかり窘(たしな)められた。形の良い唇の笑みを深め、光秀が何処となく可笑しそうに言う。
「あの小鳥も俺と同意見らしい」
「悪い子って、絶対帰蝶さんが居ないのを見計らって、光秀さんが教えましたね……!?」
「ネ!」
いつぞや会った際には口にしていなかった筈の新たな単語に、凪が隣の男をむっとした様子で見た。頬へ触れる指先を滑らせ、横髪を微かに撫でた光秀が喉奥を低く鳴らす。
「さて、どうだろうな」
「次回以降はお前と福を二人きりにさせないよう考慮する必要があるな」
「過保護な男だ」
「お前がそれを指摘するか、光秀」
(多分お互い様だと思う……)
ある意味似たもの同士とでも言うべきか。とはいえ下手に口を挟むととばっちりを受けるのは目に見えている。懐中時計を片手にしっかり紅茶を蒸らす時間を計る帰蝶と、隣に座る自身の夫をそっと見比べて、凪が仕方なさそうに笑った。
「そふぁー、ふかふか!」
「こら鴇、椅子を揺らしては駄目だろう」
一方、ローテーブルを挟んだ向かいでは、光鴇が柔らかなソファーを座りながら軽く揺らしていた。五百年後へ旅行に行った事から、こういった家具にはある程度耐性がついたものの、やはり未だ珍しいものは珍しい。普段滅多に味わう事が出来ない柔らかさだからこそ、ついついやってしまうというのもあるだろう。外国から仕入れただろう、細かな装飾の施された椅子で軽く遊ぶ弟を兄が窘めると、大きな金色の猫目をきょとんとさせて、幼子が光臣を見た。
「あにうえもふかふか、する?」