❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
振り返りながら凪へ問えば、彼女が笑みを浮かべたままで頷く。そのすぐ後、光鴇が片手を挙げて主張した。
「きちょー、とき、ここあのみたい!」
「キチョー!ノミタイ!」
「臣、お前はどうする」
「じゃあ俺も鴇と同じものでお願いします」
鳥籠の中で福が語尾を重ねる中、帰蝶の穏やかな眼差しが光臣を映す。母を見るそれとは異なる慈しみさえ感じるような眸は、少々少年にはこそばゆい。商館へ訪れると、必ずと言っていい程に弟がねだるココアを光臣自身も頼めば、帰蝶は心得たとばかりに戸棚へ向き直った。無駄のない手付きで人数分の飲み物を支度し始めた従兄弟の後ろ姿を見やり、光秀が揶揄めいた調子で薄く笑う。
「おや、俺には訊いてくれないのか、帰蝶」
「お前に好みを訊いたところで無意味だろう」
「違いない」
「光秀さんに紅茶、お願い出来ますか?帰蝶さん」
「ああ、そのつもりだ。案ずるな」
従兄弟同士互いに勝手知ったる仲である所為か、軽口の応酬も見慣れた光景である。凪が苦笑しながら帰蝶に声をかければ、淡い色の外套を揺らした相手が軽く振り返って相槌を打った。
帰蝶の商館には、堺へ薬草の調達などへ訪れる際に時折立ち寄る事も確かにあるとはいえ、どちらかと言えば圧倒的に帰蝶自らが安土の御殿へ足を運んでくれる事の方が多い。それも大抵光秀が視察や任務で居ない時を狙い定めたかの如く、様々な土産を手に訪ねてくれていた。南蛮の品々がまだまだ目新しいこの時代、初めて目にする菓子や道具に子供達は興味津々である為、凪としても帰蝶の来訪はとても喜ばしいのだが。
(御殿がお花でいっぱいになるんだよね。綺麗だからいいんだけど)
帰蝶が来た後は、御殿が一気に異国の花々で華やぐ。時折花の種なども土産でくれる為、光秀の御殿の庭は現在見事な和洋折衷となっていた。飲み物を用意する為、ひらりひらりと揺れている淡い色の外套の裾が、先日届けてくれたふくらし粉と共に贈られた白百合の花に似ている気がして、何気なく視線でそれを追う。