❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「商館長殿と顔を合わせるにはひと月前から申し入れが必要と聞いたが、存外あっさり通るものだな」
「諸外国との商談とは違い、事前の支度が不要な分、時間に融通が利くのは当然の事だ。お前が厄介事を持ち込んで来るならば話は別だがな、光秀」
「なに、妻子を連れて物騒な話をするつもりはない。今日こうして訪れたのは、凪や子らの希望でもある」
光秀が凪や二人の息子達へ視線を流した。帰蝶の足へ抱きついていた光鴇が、顔を上げて屈託ない笑顔を浮かべる。
「とき、きちょーとふくにおみやげ、もってきた!」
「そうか、ひとまず中へ入るといい。こちらへ」
凪の面影をふんだんに詰め込んだ幼子の笑顔を目にし、帰蝶が微笑する。そうして自室の入り口前に居た明智家を室内へ招き入れると、ローテーブルを挟んで向かい合った一対のソファーを勧めた。凪と光秀が並び合い、その正面に光鴇を挟んだ形で帰蝶と光臣が座る。腰を落ち着けてすぐ、窓際に置かれている執務机の横の鳥籠の中で、愛らしい小鳥がばさばさと羽根を揺らした。
「キチョー、フク、タダイマ!」
「お前はずっと屋敷に居るだろう、福」
(福も相変わらず元気そうだなあ)
可愛らしいソプラノを響かせ、帰蝶の愛鳥が鳥籠の中で自己主張する。小鳥が居る鳥籠へ視線を向けながら、凪が思わず口元を綻ばせた。息子達も鳥籠へ振り返り、流暢とは言わないまでも、十分通じる単語を発する福をきらきらとした眼差しで見つめる。南蛮貿易がますます盛んになるに連れて、様々なものがこの日ノ本へ入って来ているが、未だに喋る鳥という存在は珍しいのだろう。
「飲み物を用意する。いつものもので構わないか」
「はい、帰蝶さんの淹れてくれる紅茶、美味しいので」
一度腰を落ち着けはしたものの、すぐに帰蝶が立ち上がって硝子張りの戸棚から上品な模様の描かれたティーカップとソーサーを取り出した。