❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
そうして彼女の後頭部へ片手を回し、胸に抱き込むように腕の力をそっと強める。
「俺も寂しかった。お前や子らの寝顔を眺めるのは悪くはないが、やはりこうして言葉を交わし合う方が癒される」
「はい……後で二人の事もぎゅってしてあげてくださいね」
「ああ、とは言っても仔栗鼠の方がいの一番に寄って来そうだが」
「ふふ、そうかも」
互いに本音を零し合い、確かめ合う。何気ない日常の中の些細なやり取りひとつで、掛け替えのない幸福を噛み締め、顔を見合わせながら穏やかに笑いあった。やがてどちらからともなく腕を解けば、光秀が調理台の上に置かれている丸い狐色の菓子を見て小さく笑う。
「ところで、随分と気合いを入れて作ったようだな」
「あ……生地が思ったより沢山出来て、保存も出来ないですし、お裾分けも兼ねて一気に揚げちゃいました」
「子らだけでなく、家臣達も喜ぶだろう」
「最近は自然と時間になったら皆さん集まって来てくれるんですよ」
「……まったく、今日(こんにち)も安土は平和で何よりだ」
大皿三枚分、それも山盛りに積み上げられた丸い豆腐ドーナツは傍から見ると中々に圧巻だ。実際、凪が子供達の為に作る八つ刻の菓子を楽しみにしているのは、何も当人達だけではない。御殿勤めの家臣達も、偶然その場に居合わせればお裾分けを貰えるとあって、その刻限は中々の賑わいを見せる。九兵衛からも密かに報告を受けていた現状に、光秀が肩を緩く竦めた。
とはいえ、凪自身が楽しそう且つ嬉しそうである以上、光秀が止める理由もない。こうして凪が厨に立っている時は、基本的に何かを紛らわせようとしている事がほとんどだ。口に出して指摘こそしないが、これもまた凪に寂しい思いをさせてしまった所為に違いない。
「そうだ!光秀さん、味見してくれませんか?」
「用は立たないだろうが、それでもいいのか」