第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前

しみじみ呟く辺り、相当感慨深く思っているのだろう。彼方はともかく、凪と佐助の二人は現代からタイムスリップして以来、洋食とはとんと縁が無かっただろうと考え、敢えて武将達とは異なる洋食を選んだが、正解だったなと内心で思いつつも、彼方が突っ込む。チーズの味を乱世で再現するとは、一体どんなつわものだよという彼方の考えは、あながち間違っていないだろう。何にせよ、凪にも佐助にも喜んで貰えたようで良かったと安堵する中、三成が神妙な面持ちで煮物の中にあるオレンジ色の野菜を見つめて小さく零した。

「これは……」
「ん？どうした三成」

隣に座っていた秀吉がそれに気付き、三成の視線の先を辿る。そうして小鉢の中に鎮座するオレンジのあれを見て、彼はすべてを察したかの如く苦笑した。

「三成、好き嫌いせずちゃんと食えよ。せっかくこのほてるの厨番が腕によりをかけて作ってくれたんだからな」
「ええ、勿論です。……この人参を苦手に思う事も、私の精進が足りない所為なのでしょうか」
「まあ好き嫌いは人それぞれですから。あまり気にせずに食べるのが一番かもしれませんね」

三成の人参嫌いは秀吉もよく知るところだが、好き嫌いは男としても武将としても良くない。三成は主君の言葉にやはり神妙な面持ちのままで頷き、小鉢の中の人参と向き合った。しみじみと呟かれた言葉を耳にし、佐助がフォローを入れると、すべての皿へ唐辛子をかけ終えた家康が小鉢を手に取り、まさにその人参を何食わぬ顔で食している。

「意識する方が余計に食べ難くなるんじゃない」
「苦手だって思うよりも、得意だって思う方が案外食べれたりするもんね」

人参を本来の色よりも更に真っ赤に染めたものを食す家康に続き、凪もさり気ないフォローを入れる。石田三成って人参苦手なんだ、と心の中で密やかに萌えていた彼方が無理をせずとも、と口にしようとする前に、光秀が口元へ微かな笑みを浮かべて告げた。