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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前



わざと急かすような事を追い打ちで言えば、凪はもはや観念した様子で眉尻を下げる。

「う……、いただきます」

光秀の手ずから炊き込みご飯を一口頬張った彼女がそれを咀嚼した。出汁と醤油の程よい風味が口内に広がり、食べやすいよう細かく刻まれた野菜や鶏肉が、またよく味が染み込んでいてとても美味しい。乱世で炊き込みご飯の類いは食べられなくもないが、向こうには向こうの、現代には現代の良さというものがあると改めて実感した。

「んー、美味しい!」
「それは何より。お前の皿に乗っているそれは何だ」

満足げに面持ちを綻ばせた彼女を見て、穏やかに金色の双眼を和らげた光秀が、凪の前に置かれている料理を物珍しそうな眼差しで見る。凪達の前には、白い丸皿に乗ったクロワッサンが二つと、サラダ、ふわふわのチーズ入りオムレツに、程よく焼いたベーコンとソーセージ、ミネストローネが並んでいる。どれも武将達にとっては馴染みのない珍しい料理ばかりで、その中でも光秀が問いかけて来たのは、こんがり程よい焼き加減のクロワッサンであった。

「あ、これですか?これはクロワッサンっていう名前のパンですよ」
「珍妙な名という事は、南蛮の食べ物か」
「そんな感じです。ちょっと待ってくださいね」

皿の上のパンへ視線を向けつつ、凪が説明をすると、耳慣れない響きの名称へ光秀が納得した様子で呟きを落とす。微かに笑って肯定を示した彼女は暖かいクロワッサンを一口大にちぎり、それを光秀に向かって差し出した。

「ご飯とは違った食感だと思いますよ」

こんがりときつね色に焼けているそれを前に、男は軽く双眼を瞬かせる。先程自らが行った意趣返し、といった意図ではなく、純粋に自分へ食べさせたいのだろうという凪の心情を察して、光秀は細い指先で差し出されたそれを食べた。さくっと小気味良い音が口内で響く。中はふわふわしっとりしているにも関わらず、外側の食感が香ばしいというのは何とも不思議な感覚だ。米などの類いとは違うそれを咀嚼して呑み込んだ後、凪の些か期待した眼差しを受けながら光秀は精一杯の感想を口にした。

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