❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
何処となくアンティークな雰囲気を思わせるお洒落な外観の店先にはプランターに植えられた秋の花が彩りと華やかさを添えている。筆記体で店名が書かれた看板の他、黒板のボードには手書きでイラストやメニューと思わしきものが記載されていた。
「じゃあその、光秀さんすみませんが少しだけお店の前で待ってて貰ってもいいですか?」
「構わないが、俺に堂々と隠し事とはつれない妻だ」
「そ、そういう事じゃないですけど…!」
光秀に店前で待っていて欲しいという事を告げると、揶揄するような調子で男が笑みを乗せる。光秀の勘が鋭すぎるのか、あるいは凪の隠し事が下手なのか、もしくは両方か。いずれにせよ何かを隠している、という事実をあっさりと言い当てられ、慌てて首を振る。傍にやって来た光鴇が片手で母のニットの袖口をくいっと引っ張り、自身を指さした。
「ときは?ときはいっしょ、いく?」
「うん、臣くんと鴇くんは一緒に行こっか」
「ゆっくり見てくるといい」
店の中へ明らかに興味がある、と言わんばかりの幼子を目にして凪が笑った。子供達を連れて光秀を店先に残した三人は早速、扉を開くと同時に軽やかなベルが鳴る店内へと足を踏み入れたのだった。
女性の店員が愛想よく来店の挨拶を述べる中、三人はぐるりと店内を見回した。鼻孔を香ばしいバターや砂糖の香りなどがくすぐり、久しく感じるそれに凪が目を瞠る。光臣と光鴇も子供心をくすぐる甘い香りに意識を向け、目映い色合いのそこを不思議そうに見やった。外観だけでなく、内装もアンティークなそこは店の入り口を入ってすぐ正面に硝子張りのケースが並んでいる。その中には、愛らしい形のケーキが幾つも並んでおり、眺めているだけでも楽しい光景が広がっていた。
(ケーキ屋さんなんて何年ぶりだろ…!凄く可愛い!それに甘くていい匂い……)
ここはパンフレットに載る程の有名な洋菓子店だ。並べられた様々な種類のケーキやチョコレート、クッキーにシュークリームなど、甘い誘惑がもりだくさんな魅惑の空間である。