❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「おなまえ、たのしみ!」
「結果を知れないのは残念ですが、良い思い出になりましたね」
「うん、せっかくだから通ってくれるといいな」
「狐に俺の名をつけた程だ。見る者が確かならば、縁もあるだろう」
仲の良い狐の一家と別れを告げ、明智家も歩き出した。四人が乱世へ帰った後日、狐達の名がそれぞれ凪、みつおみ、みつときに決まったというニュースが流れ、その応募者の名が【明智光秀】であった事から、ネット上ではかなり熱心な明智光秀オタクが応募用紙を書いたに違いない、とちょっとした騒ぎになるのは、また別の話である。
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動物園をくまなく堪能した後、一家は京都駅直通のバスに乗って園を後にした。ロッカーから荷物を回収し、宿泊先に向かう為のバスを待つ。本日泊まる予定の宿泊先は昨日とは打って変わって有名な温泉旅館であり、バスは十七時頃に駅へやってく来る予定だ。その間、凪にはこなさなければならない事があった。
行きたい場所がある、凪がそう言って四人で向かった先は様々な店が並ぶ通りであり、夕刻に近い時分という事もあって昨日同様人通りが非常に多い。人酔いや疲労を懸念したものの、適応能力が速い息子達は存外問題なさそうにけろりとしていた。さすがは光秀の血を引いている子供達である。母がいっそ感心を寄せる中、目的地へ辿り着くとその前で足を止めた。
「ここです。駅から近くて良かった。二人共疲れてない?」
「とき、だいじょうぶ!げんき!」
「俺も平気です。稽古に比べればどうって事はありませんよ」
「光秀さんは?」
「俺も問題ない。それこそ、お前は疲れていないのか」
「私も平気です。乱世で鍛えた甲斐がありました」
息子達や光秀に確認を取れば、凪へ同じ質問が投げかけられる。乱世の長距離移動で鍛えられた基礎体力は、中々に侮り難いという事なのだろう。全員が問題ないという事を確かめて安堵した凪が改めて目の前に建っている店を見上げた。