❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
二人が指しているのは正しく目安箱の形を模した木の箱であり、傍には紙とボールペンが複数置かれていた。書き物が出来るような台の形になっているそこに、立て看板で手製のポスターが貼り付けられている。凪がそこへ視線を向け、書かれている内容を読み上げた。
「【ホッキョクギツネ、みつひでのお嫁さんと子供達のお名前、大募集】だって。この紙に名前の候補を書いて、応募するみたい」
「…!とき、あけちみつときっておなまえ、つけたい!」
「これは中々にお誂え向きだな」
「確かに、狐の父上の番が他の女人の名というのは俺としても看過し難いですね」
「えっ!?お、臣くんまさか……!?」
「ちちうえ、ときのおなまえ、かいて?あにうえとははうえも!」
一般公募で三頭の狐達の名を募っている途中だと知り、光臣や光鴇が表情を明るくする。光秀が口角を緩く持ち上げて視線を親子狐へ流す中、少年が案外本音のトーンで相槌を打った。ぎょっとして凪が目を瞠る傍らで、応募用紙を一枚手に取った光鴇が、それを父へ渡す。
「ああ…凪、済まないが読んでくれるか」
「本気で書く気なんですね……」
「子らたっての希望だ、無碍にする訳にもいかないだろう?」
そうして横向きの用紙にそれぞれ、凪と光臣、光鴇の名を縦書きでやけにボールペン字にも関わらず達筆な文字で記す。選考する相手が読めなくては困ると、一応端に凪がそれぞれの名を記載した後、応募者の名を記載する欄を見て顔を上げた。
「応募者のところはどうしましょう?本名でなくてもいいみたいですけど」
「こちらの世でわざわざ名を隠す事もない。何なら花押も添えるが」
「歴史研究家の人達がびっくりしちゃうから花押は駄目です……!」
妙なところで茶目っ気を出す光秀へ凪が割りと本気で突っ込むと、男が肩を揺らして楽しげに笑う。本人が言うのだから、と応募者欄に【明智光秀】と書いた後、それを折り畳んで応募箱の中へ投函した。