❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「多くの野生動物や、時には人も、種を残した後で新たな番(つがい)を求める。あの狐が生涯一頭のみと連れ添うならば、俺の名が付けられているのも存外悪い気はしない」
「光秀さん……」
硝子の向こうに居る狐の一家は、まるで自身達の縮図のようだ。転がってじゃれる二頭の狐とそれを優しく見守る親狐、心温まる優しい光景を改めて見やり、凪が笑顔を浮かべる。人目が少ないからか、穏やかな声色で囁かれるそれは羞恥よりも嬉しさの方が勝り、胸の奥がぎゅっと愛しさで疼いた。
───【明智光秀は戦国の世でも珍しい、愛妻家であり家族想いな武将である】と、てれびの中で語られていました。
(今を生きる人達が、【織田軍の化け狐】じゃなくて、たった一頭の番と生涯連れ添う優しい人って意味であの狐に光秀さんの名前をつけてくれていたらいいな。……なんかちょっと自惚れみたいな気もするけど)
今日は少し自惚れてもいいかもしれない。そんな事を考えながら、昨夜光臣から聞かされたテレビ番組の内容を思い出す。頬の輪郭を優しく滑る男の指へとそっと触れ、彼女が心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「確かに、そう考えたらぴったりの名前ですね」
「ああ、是非あの狐の番には【凪】と名付けられていて欲しいものだ」
「看板に書いてありましたけど、みつひでのお嫁さんと子供達の名前は、まだ決まってないみたいです」
「ほう……?」
指先を凪の暖かな掌に包み込まれ、光秀が穏やかに眸を眇めて笑った。みつひで、と名付けられた狐の番ならば、彼女の名がついていて欲しい。そんな事をあながち冗談でもなく述べた男に対し、凪が補足するように告げる。光秀が片眉を持ち上げて相槌を打った拍子、少し離れたところに移動していた二人の息子達が声を上げた。
「ははうえー!みてみて、これなに?」
「目安箱のようなものが置かれていますよ」