❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
白い狐が見たかった、と拗ねている幼子へ声をかける傍らで、光臣が新たな狐の姿に声を漏らす。そうして薄灰色の狐の傍をちょこちょことついて歩く二頭の仔狐の存在を前に、眸を瞠った。最初に光秀達が見ていた優雅な狐の番と思わしき、一回り小さな狐にまとわりつくような仔狐は、二頭でじゃれ合いながら転がっている。その愛らしい姿に凪や光臣、そして光鴇の眼差しが釘付けになった。
「ははうえ、あのきつねさんのおなまえ、なんていうの?」
「えーと、ちょっと待ってね……あっ、やっぱりそうなんだ」
ころころと転がってじゃれる仔狐が、父と思わしき狐にもじゃれつく。鼻先で軽く仔狐を転がして、まるであやしているような姿は実に微笑ましい。光鴇が不意に凪へ振り返り、首を傾げた。看板に書かれている名を目にして、つい彼女が嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「あの狐さんね、お父さん狐はみつひでっていうんだって」
「すごい!ちちうえといっしょ!」
「確かに言われてみれば何処となく父上に似てる気がします。ほら、あの仔狐を転がしてる感じ」
「ならば今度、あの狐を見習ってお前達を転がしてやるとしよう」
「わーい!」
「そこは喜ぶべきところなのか?鴇……」
みつひで、と名付けられたホッキョクギツネが、番の狐の顔をぺろりと舐める。それを見て羨ましいとばかりに仔狐二頭が群がり、みつひでに甘えるようすり寄っていた。微笑ましい狐の一家と我が家を見比べた後、凪が改めて視線を看板へ向ける。
「ホッキョクギツネは一夫一妻制で、単独、あるいは家族で行動する……って書いてあります。単独か家族で行動するってところとか、光秀さんっぽいですね」
「まあ否定はしないが、それだけではないだろう」
片手を口元へあてがい、くすくすと小さく笑いを零した凪の言葉に視線を流し、光秀が指の背でするりと彼女の頬を撫でる。ひんやりとした指の感触に視線を上げれば、互いの双眸が絡み合った。