❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「こんこん、きつねさん」
「ふふ、鴇くんお耳と尻尾、可愛いね」
「とき、きつねさん。あにうえはきつねさんのみみ、つけない?」
父と手を繋ぎながら歩いていた光鴇がご機嫌な様子でにこにこと笑顔を浮かべている。頭には先程土産屋で購入したふわふわの狐耳帽子を被っており、腰の辺りには耳と同色の狐の尻尾が揺れていた。子供ならではの愛らしい姿に頬を緩ませ、凪が声をかける。そうすればぱっと母の方を見上げて光鴇が片手で帽子の耳部分をぽんぽん、と触れてから兄を見た。
「周りを見ても、俺くらいの歳の童(わらべ)が獣の耳をつけている姿など見ないだろう?俺は遠慮する」
「人目など気にする必要はないぞ、臣。自身が思っている以上に、人とは他人の事などさして気にしていないものだ」
「父上はそういう都合のいい事を言って、俺にただ獣の耳をつけさせたいだけでしょう」
「おや、鋭いな。感心感心」
確かに動物の耳つき帽子を被っているのは主に幼い子供達だ。光臣くらいの歳ではさすがに羞恥心が勝るというものだろう。光秀が揶揄めいた調子で肩を小さく揺らしているのを目にし、凪が眉尻を下げながら笑った。じゃれ合っている…というより一方的に遊ばれている少年とここぞとばかりに遊ぶ父、二人の腰元へ視線を流すと彼女が微笑ましそうにする。
(恥ずかしいって言う割に、腰のやつは付けてくれてるんだよね。可愛い)
光秀と光臣のパンツやデニムのベルトループには、光鴇と色違いの白い狐の尻尾が揺れていた。金具で引っ掛ける形のそれはふわふわとした手触りで心地よく、ふんだんに毛を蓄えている辺りが見事に狐の尾を再現している。
実はその尻尾のキーホルダーは土産屋で凪が、耳と言えば尻尾!という事で追加で購入したものだ。帽子と揃いで使えるようにと他にもパンダの丸い尾など、様々な形が用意されていた。尻尾のように見せかけて尻部分に垂れるよう付けている光鴇のようにはさすが出来ないが、二人の腰に白いもふもふが揺れている様がギャップによる可愛らしさを倍増させている。