❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
はっとした様子で頷き、幼子が両手で自身の口を塞ぐ中、別の商品へ気を取られている凪の背後へ気配も無く光秀が近付いた。やがてそっと髪型を崩さぬように背後から彼女の頭へ、黒い狐耳の帽子が被せられる。
「油断は禁物だぞ、凪」
「!!!?」
背後から低く掠れた色めきを感じる声がかけられ、凪が短く息を呑んだ。ぎょっと目を丸くしながら振り返ると、すぐ傍に居た光秀が実に満足げな様で口元へ三日月を描く。黒いふわふわの狐耳は光鴇と同じく、凪の髪色によく合った。大きな猫目が瞬かれているのを前に、くつくつと喉の奥を低く鳴らして光秀が笑った。
「猫の方が似合いかと思ったが、こうして見ると狐も存外悪くない」
持ち上げた男の指先がするりと凪の頬を撫でる。そのまま輪郭を辿って顎下をくすぐるような素振りを見せられ、彼女の耳朶や目元が羞恥で赤く染まった。恥じらい方が長男とまるで瓜二つだという自覚があるのか無いのか、ともかく唇をきゅっと引き結んで物言いたげな凪を他所に、子供達が嬉しそうに声を上げる。
「ははうえ、かわいい!」
「ふふ、よくお似合いですよ、母上」
「っ、三人して私の事嵌めて……!ずるいですよっ」
(うう、完全に油断した……!てか子供達はともかく、私が被ったらさすがに痛いよ……!!)
二人も子を産んだ母という身には、このもふもふしたけも耳帽子は些か愛らしすぎるというものだ。何とも言い難い羞恥に苛まれ、困り顔を浮かべる彼女を前に、光秀がくるりと緩く巻かれた黒髪を指先へ巻き付け、そのまま優しく抜き去った。間近にある金色の双眸が愉しげな色を灯し、柔らかく綻ぶ。
「こうも愛らしいと、誰かに攫われてしまいそうだな」
「その時は爪立てて抵抗するので大丈夫です」
「頼もしい限りだ」
戯れのような言葉を交わし、光秀がそっと帽子を脱がせてやった。必然的に軽く乱れる事になった髪を梳いて整えてやりながら、帽子の陰で彼女の額に口付ける。