❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「なに、そう謙遜する事はない。それに、」
「わっ……!!?父上!?」
些か含みのある調子で口角を持ち上げた男が、長男へ一歩距離を詰める。そうして手にした白い狐耳の帽子を光臣の頭へ被せてやり、ぽん、と耳の間を撫でた。
「こういったものは童(わっぱ)が被って楽しむと言ったのはお前だろう」
「くっ、不覚……!」
「あにうえもこんこん!」
父にはやはり敵わないという事なのか、あっという間の出来事に虚を衝かれた光臣が心底悔しそうに眉根を寄せる。複雑そうな何とも言えない表情などお構いなしに、揃いだと弟が喜びを露わにした。白い狐耳の帽子は予想通り、父に似た光臣の銀糸によく似合う。白狐と黒狐の兄弟を前にして、凪があまりの愛らしさに頬を紅潮させた。
「か、可愛い……可愛いしか語彙力無くて出て来ない……」
「よく似合っているぞ、臣」
「………これで喜ぶのは鴇くらいなものですよ」
くすりと小さく鈴を転がすように笑いを零し、光秀が肩を微かに揺らす。そもそも両親には強く出れない質なのか、むっと眉根を寄せつつも溜息混じりに脱力した。
「じゃあ記念に白と黒の狐さん帽子買って行こうか。後でタグ切ってもらおうね」
「とき、これかぶる。あにうえもかぶる?」
「俺は丁重に遠慮させてもらう……」
「なんだつまらない。被って行かないのか」
「行きませんよ…!!」
会計を済ませた後でタグを切ってもらう為、一度帽子をそれぞれ脱いだ後に二人の息子達が白と黒の狐耳帽子をかごへ入れた。息子達と光秀のやり取りを目にして微笑ましそうにしている凪へふと切れ長の眸を流し、光秀が僅かにそれを眇める。次いで光臣へそのまま視線を流せば、色々と察しの良い息子が心得たとばかりに頷き、棚から大人用の黒い狐耳帽子を取った。
(あ、帽子買うならこれも一緒に買おう。こっちは色違いで皆とお揃いにしようかなあ)
父と兄の行動を目にし、きょとんとした様を窺わせた光鴇に対して光秀が人差し指を口元へあてがう。