第5章 掌中の珠 後編

（か、可愛いっ！！！）

光鴇の黒髪に黒いもふもふした三角の狐耳が実によく似合う。子供である故に、その愛らしさはひとしおだ。きゅん、と胸の高鳴りを感じて母が思わず目を丸くする中、父と兄が幼子へ感心を孕んだ目を向ける。それ程までに光鴇と黒い三角の狐耳は違和感がまるでなかった。

「これは見事な仔狐だ。よく化けたものだな」
「いっそ違和感が無いのが凄いですね……」
「とき、きつねさん！こんこん！」
「鴇くん可愛い！帽子買ったら写真撮りたい…！」

手で小さな狐の形を作り、こんこん、と動かして見せる子供の破壊力たるや凄まじい。驚きを露わにした後、すぐに面持ちを柔らかく綻ばせた光秀が、思わず光鴇の頭を帽子の上から撫でた。ふわふわの材質も手伝い、本当に仔狐を撫でているような心地になり、つい無言のまま更に撫でやる。家族から絶賛され満足げな光鴇が棚を見回し、目についたものへ手を伸ばして掴んだものを兄へずいっと渡した。

「これ、あにうえの！」
「なっ！？俺はいい…！こういうのは童(わっぱ)が被って楽しむものだろう」
「やっ、あにうえもしろいきつねさんになるの、おそろい」
「なら父上に被せて差し上げるといい。俺よりきっと似合いだ」

弟が兄へ差し出したものは真っ白な狐耳の帽子であった。光臣の髪色に合わせたそれを前に、少年が恥ずかしそうに眉根を寄せる。現代に換算すれば小学六年から中学一年といった年の頃だ。さすがにけも耳ふわふわ帽子は抵抗があるというのも、母としては分からなくはない。自らの難から逃れようと、光臣が帽子を父へなすりつけようとする。兄弟の攻防戦を前に、凪が実に悩ましそうに眉根を寄せた。

（うう、正直どっちも捨て難い……絶対二人共可愛い……）

如何せん光秀と光臣は顔がよく似ている。彼らの銀糸に白いもふもふは絶対似合うという自信がある凪が内心で零していると、光秀が光鴇の手からするりと白い狐耳の帽子を受け取り、一度幼子を下ろした。