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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



目の前に並ぶふわふわした帽子を前に、光鴇が嬉しそうな様を見せた。背の小さな幼子では見えにくいだろうと考え、光秀がひょいと軽々片腕で子供を抱き上げる。光秀が買い物かごを手にしているのを気にかけ、凪がそれを受け取った。

「ここにかご置く為の台があるので、置かせてもらいましょう」
「ああ、ありがとう」

よく見れば周りの客達もかご置き場にかごを置いてるようだ。カートがあれば楽なのだが、店内の混雑を懸念してか、それは用意されていなかった。そんな訳で傍の台にかごを置いた事で片手が空いた光秀が、光鴇の身体をしっかりと抱き直す。目線の高さが変わった事で、陳列棚がよく見えるようになった光鴇が目当ての帽子を探した。

「あれ、ひでよし?」
「そうだな、ひでよしの耳だ」
「光秀さん、その言い方は明らかに語弊が……」
「これは帰ったら確実にしばらくからかわれますね、秀吉さん」

ぴっと小さな指を向けた先には、白と黒のもふもふした毛並みと丸い耳の帽子があった。明らかにパンダ耳の帽子な訳だが、親子の認識はもはやパンダにあらず、秀吉である。にべも無く涼しい顔で肯定した光秀へ凪と光臣が突っ込みを入れる中、幼子の視線が次々に動いた。虎柄の丸い耳、白黒の縞模様、立派な鬣(たてがみ)がついたものなど、主に上部へ耳がある生き物のそれを模した帽子の種類は多岐に渡るが、光鴇が目当てのものを見つけると再び指を向けた。

「とき、こんこんきつねさんがいい!」
「狐耳か。お前は本当に狐が好きだな」

光鴇が指し示したのは黒い狐耳の帽子である。三角にぴんと尖った耳が愛らしく、ふわふわな毛を蓄えていた。硝子細工や飴細工などでも度々狐に反応を示していた幼子へ父が笑うと、光鴇が頷きながら応える。

「きつねさん、ちちうえだからすき」
「ほう…?では悪い狐に化かされないよう気を付ける事だ」

冗談めかした調子で告げた光秀を目にして凪が眉尻を下げ、子供用サイズの黒い狐耳の帽子を手にする。そうして光鴇の頭へすぽっと被せてやると、見事に黒い仔狐の誕生だ。

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