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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



「こちらの時代の筆ですか。墨が乾くのを待たずとも良いのは便利ですよね」
「ああ、急務の際に手早く密書を記すのに適している。筆先が細いとあって、細かな文字を書くにも向いているな」
「ときもみっしょ、かきたい!」

凪が持っているものを乱世で使用させた事もあり、光秀や光臣の二人はボールペンについての知識を持っている。基本は文を記すにも墨をすって書いた後はそれを乾かさなければならないが、ボールペンはその限りではない。現代では様々利便性に富んだものが存在しているが、ある意味乱世へ持ち帰って役立つ機会が多いのが筆記用具ではなかろうか。冗談なのか本気なのか、光秀が光臣に乗っかって頷いていると、傍で聞いていた光鴇も楽しそうに声を上げる。周囲から些か不思議そうな眼差しを向けられた事に気付き、凪が慌てて声を潜めながら窘めた。

「こ、公衆の面前で思いっきり密書って言わないでください……!」
「なに、冗談だ」
「光秀さんの場合、冗談が冗談に聞こえないんですから……もうっ」

口元へ笑みを乗せた男へ眉尻を下げ、凪が困り顔を浮かべた。鈴を転がすような笑いを零しながら妻の頭を軽く撫でてやっている中、子供達が別のものに興味を示す。意識を向けているのは二十四色入りの動物の形を模したクレヨンであり、試し書きが出来るようになっているそれを光鴇が手にした。

「あ、こら鴇。見世のものを勝手に触っては駄目だろう」
「むっ、ときこれさわりたい」
「試し書き用だから大丈夫だと思うよ。ここのメモ用紙にだったら書いていいみたい」
「わーい!」

象の形をした爽やかな青色のクレヨンを手にし、幼子が試し書き用の紙にそれをあてがってぐりぐりと動かした。そうすれば見事な青色が白の用紙を彩り、父子が感心を露わにする。乱世でここまではっきりとした色の再現が出来るものはそうそうない。しっかりと顔料の入ったクレヨンを手にし、光鴇が感動したように目を丸くした。

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