❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「すごい、つよそう!」
「猿に似ているが、中々に厳しい顔つきだ」
「これはゴリラっていうんですよ。力がとっても強くて頭がいい生き物なんです」
「他のものは愛らしいのに、このごりらとやらだけ妙な迫力がありますね……」
一家が注目を向けるゴリラのぬいぐるみは、リアルゴリラシリーズと名付けられた、本物そっくりの顔つきや体格などを再現した無駄に精巧な造りのぬいぐるみであった。今にも動き出しそうなそれは、他のもふもふとした動物とは異なる類いの印象である。強そうな事に変わりはないが、光鴇よりも遥かに大きなサイズ感のこれが例えば御殿に置かれていたら、家臣達がひっくり返って抜刀しそうな程に不穏な気配が漂っていた。
「光忠辺りの部屋へ置いておけば愉快な反応が見られそうだが」
「お戯れも程々にしてください父上。ごりらとやらの首が一太刀で落ちそうです」
「!!?ごりら、かわいそう……とき、これいらない」
「買うつもりだったのか」
くす、と肩を小さく揺らして可笑しそうに笑みを零す光秀を見上げ、光臣が何とも言い難い半眼を向けた。暗がりの部屋にこのリアルゴリラが鎮座していたら、確かに中々のホラーである。光忠でなくとも驚いて抜刀するだろうと容易に想像出来る光景に、光鴇がぎょっと目を丸くした。力強い筋肉質な様を表現していたゴリラの腕から手をそっと離し、幼子が眉尻を下げる。光秀の意外そうな突っ込みを耳にしながら、凪はその光景を眺めてそっと面持ちを生暖かく綻ばせた。
(ゴリラのぬいぐるみでここまで盛り上がれるなんて我が家くらいだろうなあ……可愛い)
リアルゴリラのぬいぐるみそのものはさておき、未知の生き物に関心を寄せる自身の家族に愛らしさを感じて凪がついつい胸をほっこりさせる。自らゴリラのぬいぐるみを諦めてくれた光鴇へ安堵しつつ、今度は別の陳列棚へ視線を向けた。そこはちょうど文房具コーナーとなっており、動物の可愛らしい絵柄が描かれた鉛筆や、マスコット付きのボールペンやシャープペンシル、ノートやスケッチブックなどが並んでいる。