❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
凪と光臣も何事かと光鴇が見ていた方向へ意識を投げて、もしやと内心で予感を過ぎらせた。幼子の大きな金色の猫目がきらきらとねだるような色を帯びて輝く。父と繋いだ手をきゅっと握り締め、軽く引くようにして元気に告げた。
「ときもあれ、ほしい!」
あれ、と光鴇が指したものを辿って光秀が得心した。凪や光臣も同様に納得すると、母が微笑ましそうに頬を緩める。幼子が欲しいと父にねだったものは、同じ年頃の子供が被っていた帽子だ。動物の耳を模した形である上、もふもふした生地で出来ているそれは、テーマパークなどでよく見られがちなお土産ショップで売られている類いのものだ。その子供が被っているのは丸い耳が上部についた白と黒の模様、即ちパンダ耳の帽子であった。
「あれか、時折被っている童(わっぱ)の姿を見掛けていたが」
実はここまでに至る間にもちらほらと、主に幼い子供が被っている姿を見掛けていた。珍妙なものを被っているな、程度の認識しかなかった為、然程気に留めていなかったが、自身の息子が欲しいとねだるならば話は別だ。光秀は基本的に二人の息子と愛する妻には甘い男なのである。
「お土産屋さんとかで売ってると思います。えーと……」
「母上、あそこに入り口にもあった看板と同じものがありますよ」
園内パンフレットを荷物の中から取り出そうとしていた凪を気遣い、光臣が周囲を見回して見掛けた案内板を指した。彼の言う通り、入り口付近で目にしたものと同様のそれへ近付き、赤い印で示された現在位置を確認する。その中で光鴇が求めているであろうものを発見すると、凪が小さく声を上げた。
「あ、もしかしてここかな……?」
「うりがいる!」
母が視線を向けたそこには、デフォルメされた猿のイラストと共に如何にも商店といった外観の店のイラストが描かれていた。その付近には【おさるの土産屋】と記されており、所謂土産物を扱う店である事が窺える。愛らしい猿のイラストを目にして、幼子が秀吉の飼っているウリの名を上げて喜んだ。