❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
チンチラコーナーの次に人気だったのは、様々な種類の犬が居たコーナーだ。野犬や柴犬などの日本犬ばかりを目にしていた事もあり、洋犬は子供達や光秀にはたいそう珍しく映ったらしい。ちなみにけいじと名付けられていたのは牧羊犬として有名なボーダーコリーであった。
ただ眺めるだけでなく、実際に動物と触れ合えたという事で子供達はご満悦のようであり、それを目にした父母も嬉しそうに面持ちを綻ばせる。園内に所々設置されている時計を見ると、もうすぐ十一時になろうとしていた。
「あと少しで昼餉の時間になりますね。このまま園内で食べる形でも大丈夫ですか?」
「ああ、構わない。どの道、帰りのばすとやらが来るのは昼過ぎだろう」
凪が光秀へ窺いを立てると、男からは色好い返事が紡がれた。京都駅以外にも多方面へ直通バスを出している関係で、帰りはある程度時刻が限られている。スマホを取り出した彼女が、写真を撮っていたバスの時刻表を確認して顔を上げた。
「そうですね。えっと確か……十五時に京都駅行きのバスがあるので、それに乗れば平気です。じゃあ昼餉のレストラン……食事処を探しながら行きましょう」
「分かりました」
凪の提案へ光臣が頷く。園内には幾つか休憩処が設置されており、店々によって取り扱う料理の種類が異なる。喫茶店風な軽食からしっかりめの洋食料理、ファーストフード系、和食など様々な店が点在しているがいかんせん園内が広い為、ピンポイントで向かうのは大変だ。よって道すがらにある店へひとまず入る事に決めたのだった。
そんな中、いつもならいの一番に話へ割り入って来る幼子が静かな事に気付き、光秀が視線を落とす。父と手を繋いだまま歩いている幼子の視線は、少し先に歩いている同じ年頃くらいの子供へ向けられていた。
「鴇、どうした。何か気になるものでもあるのか」
光秀が問うと、幼子は視線をしばらく子供に向けた後、ばっと父を勢い良く振り仰ぐ。