❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
ある意味素直になったというべきか、そんな見知った男と同じ名を持つ小動物を微笑ましい気持ちで眺めていると、片眉を軽く持ち上げた父の、あながち冗談ではなさそうな声が聞こえて来て意識を向けた。
(光忠さん、乱世に戻ったら父上にからかわれそうだ)
自身の膝上に居るしげともは実に大人しく泰然自若としていた。ひくひく動く鼻や長い髭が庇護欲をくすぐり、光臣がつい口元を綻ばせる。
「鴇くん、ほらとしみつさんも撫でてって見つめてるよ?いいこいいこしてあげよう?」
「むっ……としみつ、いいこいいこ」
「としみつさん、嬉しそうだな」
みつただを撫でたいとぶすくれながらも、膝に乗っている温かな小動物に罪はない。光鴇が小さな手でよしよしと撫でてやれば、としみつが心地よさそうに眸を細めて擦り寄る。懐かれれば当然悪い気などする筈もなく、幼子が曲げていたへそを直して嬉しそうに面持ちを綻ばせた。
(二人共楽しそうで良かった。チンチラなんて乱世に居ないし、この毛並みを触れる機会なんてないもんね。光秀さんはひでみつさんの事、撫でてあげてるのかな?)
野生の動物は乱世にもある意味多く居るが、ここまでのもふもふにはそうそう出会えまい。すっかり凪の膝上で寛いでいるみつただを撫でてやりつつ、彼女が何気なしに視線を隣に居る光秀の方へ向けた。
「確かに毛色はよく似ているようだな、ひでみつ」
白に近い色合いの毛並みを持っているひでみつが、しゃん、と背筋を伸ばすような体勢で光秀と正面から向き合っている。ぴんと伸ばした長い尻尾は些か緊張感を露わにしているようだが、男のしなやかな指先が耳と耳の間をくすぐると、ゆらゆら揺れた。そうして心地よさそうに眸を眇めている様を目にして凪の胸がきゅんと高鳴った。
(小動物と戯れる光秀さん、可愛い……!!!)
チンチラをよしよしと指でくすぐるように撫でる様は愛らしいのに何処か優雅だ。