❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
笑顔でにこやかにスタッフがそれぞれ撫でているチンチラ達の名を教えてくれた。いずれも聞き覚えしかない名に、凪が思わず短い声を零すと膝の上で寛いでいる大きな丸いもふもふを見る。光臣や光鴇もさすがに察したのか、それぞれ目を丸くして家族の膝に居るチンチラを見やった。
「茂朝に利三、光忠に秀満って……」
(全員五宿老だよね……!!?)
生憎と五宿老の一人、藤田行政(ふじたゆきまさ)は不在だが、それ以外は見事に明智五宿老が勢揃いであった。母の膝上に居る薄灰色の毛並みを持つチンチラの名がみつただだと知り、光鴇が駄々をこね始める。
「とき、みっただだっこしたい…!」
「としみつの奴め、鴇に嫌われたらしい」
「としみつさんは鴇や俺の事、とても可愛がってくれてるんですけどね……」
「大方形相が恐ろしいというのが理由だろう。愛想笑いのひとつも無い男だからな」
「父上……」
くす、と可笑しそうに五宿老の殿たる立場にある光秀が笑った。斉藤利三はとてつもなく無骨な男だが、強面の割に小動物と子供と草花を愛する心優しい男である。表情にこそ出さないが、怖い!と光鴇に拒否されると背中で泣いている姿を度々見掛けている光臣が苦笑した。
一方、鴇にご指名を受けた凪の膝に居るみつただは、すりすりと彼女の掌へすり寄り、どっしりそこに腰を下ろして動く気配がまるでない。くるんとした尻尾を彼女の腕へ巻き付け、思い切り懐いていた。膝に乗ったままのもふもふを撫でながらも、お気に入りの家臣を抱っこしたい光鴇が不服そうに眉間を顰める。
「みっただいじわる、ときのかしんなのに……」
「ちんちらの姿だとみつたださんは素直ですね……」
「ほう……?みつただの奴め、そういう魂胆とは」
むすっとした様を隠しもしない弟と、その弟にもふもふされているとしみつを見た後、改めて光臣が母の膝に居るみつただ(チンチラ)を目にした。ご機嫌を損ねた幼子を何とか宥めようとするも、彼女の膝に居るみつただは山の如く動こうとしない。