❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
幼い子供達が大人付き添いの元、チンチラを触っている様を目にして好奇心が湧いたのか、光鴇がきらきらした眸を向ける。
「ではご家族様全員こちらをつけて、椅子でお待ちください。今チンチラちゃんを連れて来ますねー」
全員分のナイロン製エプロンを渡され、スタッフが立ち去る。木製の背凭れがない長床几に似たベンチへと腰掛け、凪がエプロンをそれぞれへ渡した。ちなみにこのエプロンは所謂洋服の汚れ防止というやつだ。子供用は大人用よりサイズが小さく、熊やペンギン、ライオン、虎などのデフォルメされた動物達が総柄で描かれている。
「こうやってこの紐の部分を首にかけて、紐を後ろで結ぶんですよ」
「珍妙な前掛けだな。水濡れには強そうだが」
「布よりは普通に水は弾くかなあ。政宗とかが料理する時、喜びそう」
「ふふ、そうかもしれませんね」
腰で紐を結ぶ形のエプロンを凪が実際に着用してみせると、光秀や光臣がそれに倣う。乱世には存在しない材質のそれを物珍しそうに見つめる男へ笑いかけ、凪が乱世の料理仲間、政宗の姿を思い起こした。政宗が黒いエプロンをつけている姿を想像すると、つい笑みを零した光臣が同意を示す。そんな中、頭から紐は通したものの、後ろ手で上手く結べないでいる光鴇が父の元まで向かってくるりと背を向けた。
「ちちうえ、とき、できない」
「どれ、貸してみろ」
光秀が光鴇のエプロンの紐を手にし、程良い具合に蝶々結びにした。出来たぞ、という合図を込めて幼子の背をぽんと軽く叩いてやると満足げな様の光鴇が振り返る。無地の黒いエプロンを着用している大人二人と兄に対し、子供用のそれは実にファンシーで愛らしい。
「ありがと!」
「鴇のは随分賑やかだな」
「まさむねとしんげん殿がいるようだ」
「本当だ、イワトビペンギンと虎がいる」
「ふふん!」
「何故お前が得意げなんだ」
自分達とはかなりテイストの異なる光鴇のエプロンを見て、光臣が笑った。