❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
シャンプーとリンスで洗い上げた光秀の髪はさらりと凪の手の中から零れ、機械から発せられる熱風に煽られるままふわりと舞う。火傷しないよう気遣いつつ、繊細な手付きでそっと触れられる度、光秀の内側がじんわりと暖かくなった。乱世にあるものなどとは比べ物にならない、鮮明に映る鏡越しに凪の姿を見ていた光秀は、彼女の仕草を観察し、次いで凪自身を見る。口元を楽しげに笑ませ、指先を光秀の髪へ滑らせていた。短い光秀の髪は割とすぐに乾くらしく次第に水気がなくなり、銀糸が乾いて来ると備え付けであったブラシで髪を梳いて行く。分け目や前髪を整え、横髪を流すように梳いた後、仕上がった様を見てドライヤーの電源を落とした凪が満足げに笑った。
「出来た!凄いふわふわでいい匂いっ」
「もはやあまり驚くものなどないと思っていたが、これ程までに髪が速く乾くとはな」
「シャンプーとリンス効果でサラサラ三割増しですね」
ブラシを備え付けであった場所へ置き、ドライヤーも充電器へ戻した後、凪は改めて自らが整えた光秀の髪へ指先を触れさせる。ふんわりと柔らかく仕上がった髪は普段よりもいっそう艶を増し、洗面所の上に設置されたオレンジ色の照明を受けてきらきらと光った。乱世では光秀に髪を梳いてもらう機会が多い凪だが、逆に光秀相手へこうして髪を整えるという事は無い。それ故に、現代で叶って嬉しいと言わんばかりの面持ち浮かべる彼女の表情を映し、男はそっと椅子へ座ったままで背後を振り向き、恋仲の名を唇に乗せた。
「凪」
「はい?」
紡がれた声に反応を示して光秀へ視線を向けたと同時、伸ばされた片腕が彼女の後頭部へと回される。そのまま優しく引き寄せられ、二人の唇が重なった。ちゅ、と愛らしいリップノイズを立ててすぐに離れて行く形の良い唇を前に、光秀が金色の双眼をそっと眇めて笑みを浮かべる。
「ありがとう。俺の世話を甲斐甲斐しく焼いて疲れただろう。ゆっくり身体を温める事だな」
悠然と笑んで告げる男を前に、凪が薄っすらと目元を赤らめた。鼻腔をくすぐる心地良い香りと、目の前でさらりと流れる銀糸が視界に映り込めば、一度は収まりかけた彼女の鼓動が再び早鐘を打ち鳴らす。