• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前



さすが乱世の人間だけあり、浴衣姿もさらりと着こなしてしまう辺りが憎く、何とも言えず格好いい。思わず鼓動をどくりと跳ねさせてしまった彼女は、さり気なく視線を男から逸らすと逸る鼓動を抑えつけた。

「…どうした、俺に見惚れているのか?」
「ち…っ…」

(違うって断言出来ないところが何か悔しい…っ)

顔を背けた拍子、凪の耳朶がじんわり紅くなっている様を前にした光秀は、くつりと喉奥で小さく笑いを零した後、実に愉しげな面持ちを浮かべて問いかける。はっきりと主張出来ればいいものを、否定出来ないのが悔しいところだ。やがてもう一度凪が光秀へちらりと視線を戻した刹那、再び髪から雫が滴った。乱世では自然乾燥以外に方法はないが、現代には便利なものが沢山ある。何やら思い至った凪は、恥ずかしさを一度押し込めて、光秀へ近付いた。

「光秀さん、ちょっとこっち来てください」
「……ん?何か間違っているところでもあったか」
「そういう訳じゃないんですけど、こっちです」

(というかさすが高級ホテル。シャンプーとボディソープの香りがいい感じに主張し過ぎず中和されて、凄くいい匂い…っ)

傍に寄るだけで、凪の鼻を良い意味で刺激する心地良い香りを光秀がまとっているという事実が、余計に鼓動を逸らせる。光秀の手を取り、不思議そうに双眼を瞬かせている彼を連れて再び洗面所へ戻った。初めてシャワールームを使用したというのに、脱衣所の床には水滴1つ落ちていない。使い終えたタオルも綺麗に畳まれ、使用済のものを入れる籠の中へとしっかり収められていた。

「どうぞ、ここに座ってください」

大きな鏡の前の柔らかな椅子へ光秀を座らせ、凪が設置されているドライヤーを手にした。充電式であるコードレスタイプのそれを手にし、かちりとスイッチを入れる。途端、ゴオッという音と共に熱風が吐き出され、鏡越しに驚いた眼を瞠っていた光秀と視線がぶつかり合った。軽く左右に揺らしながら温度を確かめた後、光秀の濡れた銀糸へ指先をさらりと這わせて告げる。

「せっかくですし髪、乾かしますね」
「五百年後の世には、随分と珍妙なものがあるらしい」
「でも、速く乾いて便利なんですよ」

熱風をあてて手櫛で優しく髪に含まれている水気を飛ばした。

/ 800ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp