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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



「鴇、まだ落ち込んでいるのか」
「……とき、しょぼんってなってる」

怒っているというより落ち込んでいる事を主張した幼子が、眉尻をますます下げて肩を落とした。子供の気を逸らそうと他の動物を見るよう促してみるが、光鴇の機嫌は一向に浮上しそうな気配はない。それというのも、ようやく辿り着いた虎の古戦場────光鴇がもっとも楽しみにしていた虎コーナーが関係していた。

「虎さんが健康診断の日だったのは残念だけど、具合が悪くないか薬師に診せるのは大切な事だからね。鴇くんも分かってあげよう?」
「とき、しんげんさま、みたかった……」
「しんげん殿も時には羽根を伸ばす事も必要だろう」
「そうですね、しんげん様は今頃ご自分のお部屋でゆっくり休まれているのだと思います。無理やりしんげん様を連れ出すのは鴇も嫌だろう?」

ちなみに虎の名はある程度予想出来ていたが、しんげんであった。名付け親の捻りがないのか、ある意味歴史好きとして共感すべきなのか微妙なセンスである。虎のしんげんは本日、たまたま健康診断の日に当たっていた為、お休みとの事であった。虎の古戦場前に設置された看板に今日は遊覧場へ姿を見せない旨が記載されており、それによって虎を目にするのを楽しみにしていた光鴇が酷く落ち込んだ、という流れである。

「でもとき、しんげんさまのせなか、のりたかった」
「それは仮にしんげん殿の姿が見られても難しいだろうな」
「じゃあ今度政宗の御殿にお邪魔しに行こうね。照月ともしばらく会ってないし」
「うん……しょーげつといっしょにとき、ねんねする」
「政宗には土産を弾ませる必要がありそうだ」
「ふふ、そうですね」

奥州と安土を行き来している政宗の愛虎、照月は現在、安土の政宗の御殿に信頼のおける家臣が住まい、引き続き面倒を見てくれていた。本来ならば成長した段階で野生へ帰すつもりだったらしいが、すっかり人に馴れた照月は森へ帰ろうとはせず、結局政宗の御殿の番犬ならぬ番虎として今も元気に暮らしている。

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