❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
そうしてまさむねといえやすが見事に睨み合っている様を撮り、満足気にディスプレイを見る。
「もしかしてお二人に見せて差し上げるんですか?」
「そう、面白そうじゃない?」
「母上も父上に少し似て来ましたね……」
「えっ」
凪が撮った写真を隣で光臣が軽く覗き見て、そこに写っている二羽のペンギンに口元を綻ばせた。ちょうど互いに顔を見合わせ、睨み合っているような構図が何ともシュールである。母の無邪気な笑顔を目にし、長男が眉尻を下げて苦笑めいた笑みを浮かべた。よもや光秀に似ていると言われるとは思わず、彼女が短い声を上げると傍で話を聞いていた男が口角を持ち上げる。
「ほう……?あの二人をからかおうとは悪い母だ」
「ははうえ、わるいこなの?」
「わ、悪い子じゃないです……!少なくとも光秀さんよりは」
「それは同感ですね」
「ときもどーかん」
「お前はよく意味が分かっていないだろう、仔栗鼠」
「ん?」
揶揄を含ませた光秀の言葉に乗っかった光鴇の、無垢な眼差しが心に刺さる。首を慌てて振った凪が夫の名を持ち出すと、光臣が笑顔で賛同した。兄に便乗した幼子が片手を上げると、光秀がくす、と笑いながらぷっくりした頬を軽く指先で突付く。そうしてペンギンの散歩に偶然遭遇する事の出来た一家は飼育場へと戻っていくペンギン達の跳ねる後ろ姿を見送った後、再び虎コーナーを目指して足を進めたのであった。
ペンギンの園内散歩を見送り、途中に居る様々な未知の動物を楽しく見物して回った一家は現在、最奥の位置する虎の古戦場コーナーを通り過ぎて来た道順とは別のルートを辿り、歩いていた。つい先程までは様々な動物を前にして興奮頻(しき)りであった光鴇は現在、しゅんと落ち込んだ様子で父と手を繋ぎ、ぶすくれている。気遣わしげな凪や兄が幼子を見守る中、光秀が尖っている子供の唇を見て吐息混じりの笑いを零し、穏やかに声をかけた。