❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
ふさふさの飾り羽と呼ばれる羽が特徴的なペンギンはやや小さめであり、頭を左右に振って小刻みな歩幅で両足を揃え、飛びながら移動している様が実に愛くるしい。
まだ歩き始めたばかりの頃、跳ねるという行為を覚えたての兄弟を思い出し、光秀が微笑ましそうに零した。翼をやや後方へ向けながら適度な速度で跳ね歩くペンギン達は見事なまでに一列で整列しており、隊列を乱していない。その様が何処か行軍じみていて、つい凪が面持ちを綻ばせる。
「このペンギンさんはイワトビペンギンという種類で、高い所に登るのが大好きです。名前の通り平地でも跳ねて移動しますが、泳ぎもとっても上手なんですよ!中でも一番泳ぎが上手なのが、この先頭にいるまさむねくんです!」
飼育員がペンギンの散歩を見学している観客達へ説明する中、先頭を歩くイワトビペンギンの名を紹介した。そこで紡がれた名を耳にし、凪や光秀、兄弟が目をそれぞれ丸くする。カワウソのみつなりやカンガルーのゆきむらも中々のインパクトであったが、ツンツンした黄色い飾り羽を持った切れ長の鋭い目を持つペンギンへ、一家の注目が一心に集まった。
「!!!?」
「ほう、まさむねにそんな特技があったとは驚いた」
「まさむね、すごい!」
「父上の仰るそれ、絶対別の意味ですよね……?」
「いや?あくまでもぺんぎんとやらの話だが」
ぎょっとする凪を他所に、光秀が実に面白そうな調子で告げた。光鴇は純粋にペンギンのまさむねに賛辞を贈っているが、光臣は父の含みのある言葉を察し、何処となく胡散臭そうな眼差しを向ける。息子から懐疑的な視線を受けても、まるで堪えた様子のない男が口角を持ち上げた。からかいのネタがまたひとつ増えたと言わんばかりの様子に、凪と長男の声が心の中で重なる。
(絶対嘘だ……!!)
(嘘ですね……)
ペンギンのまさむねは飼育員の女性の隣で凛々しく立っており、その傍には他のペンギン達も付き従っているように見える。