❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
鷹揚に頷いた男を見上げて彼女が眉尻を下げつつ笑うと、人々が意識を向ける方へと視線を投げた。人だかりが出来ていた場所は何かの動物のコーナー前であったらしい。通路の一部を開けるようにしている事から、何かがこれから通るのであろうか。同じ疑問を感じ取ったらしい光臣が、微かに目を瞬かせて周囲を見回す。その刹那、やや遠方に見えるものの存在に気付いて声を零した。
「向こうから何かがやって来るようですね」
「本当だ。あれ、もしかして……!」
光臣が見掛けたものの存在に客達が気付くと、さざめきのように声が響く。動物を驚かせないよう大声での歓声を控えているらしく、あちこちから声量を抑えた調子で可愛い、という単語が多く飛び交った。光秀や光鴇達も同じ方向へ意識を向ける。やがて先頭を歩く飼育員と思わしき白いツナギ姿の女性が映り込んだ。
「こんにちはー!只今ペンギンさんのお散歩中でーす!」
「やっぱりペンギンだ……!」
「ぺんぎんさん?かわいい!」
飼育員が愛想よく声を張る。彼女を先頭として、その後ろにペンギンが複数羽一列になった状態でよちよちと独特の歩き方をしながら人だかりの前、ちょうど通路を空けていた場所を通る。柵や水槽越しではなく、こうも間近でペンギンを見る機会など凪自身も滅多にない。初めて目にするペンギンの姿に幼子が目を丸くし、光秀に抱き上げられた体勢のまま笑顔を浮かべた。
「あれは鳥か……?その割には随分と大きいが」
「はい、鳥の仲間ですよ。ただし空は飛べないんですけどね」
「空を飛べない鳥とは、また変わっていますね。ですが見た目がとても愛らしいです」
「ぴょんぴょんってしてる」
「まるで赤子の頃のお前や兄のようだな」
「ときとあにうえ、ぺんぎんさん!」
乱世では絶対にお目にかかる事のないペンギンの散歩を見れるとは、中々の幸運である。鳥の仲間だという事を凪が教えると、光秀と光臣がそれぞれ関心を示した。