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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



頬へ触れた柔らかな感触に、凪が嗜めるような声を控え目に発する。僅かに赤い舌先を覗かせ、自身の唇を舐めた男が悠然と応えた。軽く吹き付けた初秋の風が銀糸を揺らし、その拍子に太陽の光が注いできらきらと輝きを帯びる。

羽織っている白いロングカーディガンの裾がふわりとなびく様は、例えようのない程に綺麗だった。色んな意味でずるい、と零した彼女のそれはしかし、負かされる事を良しとした甘やかな響きを帯びている。風で軽く乱れた彼女のゆるふわに巻かれた髪を直してやりながら、光秀が楽しそうに笑った。

「あ、ひでよし、あぶない!」
「それ以上前に行くと危険ですよ、ひでよしさん…!」
「!!?」

そんな中、ひでよしのまったりとした木登りを見守っていた息子達が揃って声を上げる。一体何事かと凪達が視線をパンダのひでよしへ向けたと同時、それは起こった。

「わあ!」

どすっ、と実に鈍い音を立てて、中腹付近の細めの木の枝からひでよしが草原へ落下した。光鴇が落下の瞬間、見ていられないと言わんばかりに小さな両手で目を覆う。背中からぼとりと落ちたひでよしは、そのままごろんと寝返りを打つようにして草原の中をじたじたと動いていた。

「ひでよしが落ちたな」
「……父上が仰ると何だか若干他意を感じますね…」
「さて、何の事やら」

しれっとした様子で光秀が告げると、光臣が苦笑を浮かべる。凪が密やかに息子へ賛同している中、光鴇が両目を覆っていたそれをそろりと下ろし、眉尻を下げた。

「うう、ひでよしいたいいたいってなってる……かわいそう」
「いや、案外そうでもなさそうだ」

高さは思いのほかなかったが、体重の関係で傍目には非常に痛そうに見える。心配そうな幼子の懸念を吹き飛ばすかの如く、父が柵の向こうを見て口元を笑ませた。そこには、寝転がった状態で再び傍にあった笹を食べているひでよしの姿があり、当人にとっては然程痛手ではなかった事が窺えたのだった。

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