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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



「この子の名前……ひでよしっていうらしいです」
「……!」
「ほう、それはそれは……」
「ひでよし、まるいのにころんってなってて、かわいい!」

衝撃のネーミングに光臣が切れ長の眸を瞠る中、隣では明らかに揶揄の窺える笑みを浮かべた光秀が、関心した様子で視線をタイヤに揺られるパンダ……もとい、ひでよしへと向ける。光鴇だけは純粋な様でパンダの愛くるしさににこにこと笑顔を浮かべていた。

(まさかパンダの名前が秀吉さんと一緒なんて……!もしかして和風コンセプトだからとか……?まさかそんな事ないよね。きっとたまたまこの子がひでよしだっただけで……)

思わぬ伏兵とでも言うべきか、ひでよしと名付けられた雄のパンダは親子の生暖かな視線を受けてもまったりと寛いでいた。しかし、ふと何事か思い立った様子でのそりと起き上がり、ゆったりとした足取りで移動する。

「ひでよしが何か仕出かすようだ」
「ひでよし、なにするの?きのぼり、する?」
「……あ、ひでよしさん、木に手をかけましたよ」

(臣くんと鴇くんはさておき、絶対光秀さんはわざとだ……!)

もはやパンダと呼称する気は親子にはないらしい。のそのそと動いたひでよしが、ブランコが取り付けられている太い木の幹へと爪をかけた。そうしてのっそりとした動作で木登りを始めた様を目にして、光鴇が嬉しそうに飛び跳ねる。

「ひでよし、がんばれー!」
「あの鋭い爪は木登りをする為だったのかもしれませんね」
「だが、どうやらあのひでよしは己の体格を理解していないらしい」
「……光秀さん、向こうに帰っても秀吉さんの事、からかっちゃ駄目ですよ?」

爪を引っ掛けて上へ上へと登っていくひでよしはしかし、光秀の言う通り相変わらずのっそりした動きで細めの枝の方へと向かって行く。口元に歪みない綺麗な弧を描いた男を見上げ、凪が念押しのように告げた。この悪い顔はどう考えても乱世に戻ってから、パンダではない本物の秀吉をからかう気でいるに違いない。

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