❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
思わず突っ込んだ凪であったが、動物が危険か否かを判断するのは、恐らく乱世に生きる者の性(さが)のようなものなのだろう。ちょうど柵の付近に設置されていたパンダの解説看板へ視線を向けると、凪がそれを簡単に読み上げる。
「えーと…パンダはクマ科……熊の仲間で、基本的には大人しくて恥ずかしがり屋な性格みたいです。あと木登りが大好きだって書いてありますよ。子育ての時は結構神経質になるみたいですけど……あと一日の半分以上、ご飯を食べて過ごしてるそうです」
「ほう……確かに寝転がりながら先程から笹を食っているようだ」
「ねんねしてひるげたべてるの?わるいこ!」
「そういう習性なのかもしれないぞ。とはいえあの体格で木登りが得意そうには見えないが……」
野生のジャイアントパンダも滅多に人を襲う事はないらしいが、園内飼育で人に慣れているパンダはいっそう警戒心が皆無の様子であった。ストレスが何事にも大敵とされている為、ああしてリラックスしている様は、ある意味で良い環境である証なのかもしれない。一日の半分以上を食事で過ごすという事実に驚き、父子の視線がパンダへ向けられる。ゆらゆらとタイヤのブランコに揺れながら仰向けの状態で笹を食べている様はある意味優雅だ。
「木登りしてるところも見てみたかったけど、パンダの気分次第だしね。……あ、看板にこの子の名前も書いてあるよ……って、え!?」
ブランコで食事中のパンダは生憎と木登りをしてくれそうな気配はない。パンダの説明が記されている看板に、名が記されている事に気付いた凪が視線を何気なく向けた。そうしてそこに書かれていたものへ、咄嗟に頓狂な声を上げる。
「凪、どうした」
「そこまで驚く程珍妙な名だったのですか?」
「ぱんだのおなまえ、なんていうの?ぱんだ?」
父子の不思議そうな眼差しが三方向から向けられ、凪が何処となく言いにくそうに眉尻を下げる。やがて相変わらず柵の向こうでのんびり仰向けに食事中のパンダをちらりと一瞥した後、ぽつりと告げた。