❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「なんでもありません。じゃあ行きましょう!最初はパンダ御殿ですよ」
(表情を読み取るまでもないな)
今日という日を如何に楽しく思い出のあるものとして過ごせるか、凪や子供達の表情にはそんな想いが溢れている。瞼を伏せ、口元を綻ばせた光秀が短い相槌を打った。息子達も元気にそれへ反応を示し、親子は早速近場にある大きな寝殿造り風の建物へ向かったのだった。
パンダ御殿は動物園の中でも特に人気の高いスポットらしい。比較的空いている園内においてもそれなりに人だかりが出来ているのがその証拠だ。御殿と名付けられている通り、パンダが飼育されている柵が寝殿造りの外側を模している。実際には天井などは設けられておらず吹き抜け状態だが、柵の上部が瓦屋根のようになっている事から、観客側から見ると確かにパンダが御殿の中に居るように見えるのだから、中々にユニークであった。
「すごい!ふわふわ!」
「可愛いね!」
最前列を陣取る事が出来た明智家が、柵の向こうに居る白と黒のもふもふした生き物へ視線を向ける。ちょうど絶賛お遊び中であるパンダは、木の枝に括り付けられたタイヤのブランコに上半身を乗せてゆらゆらと揺れていた。初めて見るパンダに大興奮の光鴇が、もふもふした触り心地の良さそうなそれに大きな眸を輝かせる。目の周りの黒い模様によって垂れ目に見える生き物は実に愛くるしく、凪もついつい初見でないにも関わらず胸を高鳴らせた。
「想像していたより大きいんですね……それに動きがゆっくりです」
「だが意外と爪は鋭いようだ。案外暴れれば厄介な生き物の可能性もあるな」
「光秀さん、そこ……!?」
もっと小さな生き物を想像していたらしい光臣が、だらんとした様子でブランコに揺られているもふもふを見て興味の色を示した。実は弟と一緒で案外愛くるしい生き物を好む光臣に、パンダの見た目は密やかに刺さったようだ。そんな中、容姿云々より先に、大きな肉球の先にきらりと光る太い爪へ視線を注いでいた光秀が、片手を顎へあてがいながら神妙に告げる。