❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「……!はこ、のるの?とき、たべられる?」
「バスは食べないから大丈夫だよ。目的の場所まで連れてってくれるの」
「便利な駕籠(かご)ですね」
今晩の宿は予約の関係で別の場所になる為、チェックアウトを済ませてから動物園へ出発しなければならない。元々手荷物が多い訳でもないが、邪魔になるのですべて駅の大型ロッカーへと預けて行く算段である。念のためスマホで動物園までのルートを写真に撮り、パンフレットを閉ざした。昨夜の内に荷物の整理は済ませているとあって、準備は万端だ。
「よし、じゃあ家族旅行二日目、出発しよっか!」
「わーい!しゅっぱーつ!」
凪の号令に合わせ、光鴇が小さな拳を天井に向かって突き上げる。こうして光秀の誕生日当日、家族旅行in五百年後の二日目が幕を開けたのだった。
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京都駅前のバス停から園直通となっているバスに乗り、片道一時間。到着した動物園は、平日という事もあってまだそこまで人が混み合っていない様子だった。ロッカーに手荷物以外すべてを預けて来たという事もあり、割りと身軽な状態の親子は入園チケットを購入して早速園内へと足を踏み入れる。京都の景観に合わせた動物園、というのがここのコンセプト且つ売りらしく、園内は和風の外観をした建物や柵、塀などで囲まれている。開園時刻である十時に合わせて入園した事もあり、割りとゆったりとした状態で見れるとあって中々に有意義だ。
「光秀さん、本当にいいんですか?荷物持ってもらっちゃって……」
スマホと財布、化粧直し用の道具が入った小さめの肩掛けバッグを持った凪が、中くらいの大きさの黒いトートバッグを肩にかけている光秀を見る。バッグの中には念の為に持って来た光鴇用の着替えやハンカチなどが入っていた。それ以外にも出発前に光秀が何かを入れていたが、果たして何を入れたのかは凪もよく分かっていない。