❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
視線の意図に気付かない凪が不思議そうに問うと、光秀がすぐに何もない風を装って応える。片手を伸ばした先には緩やかなウェーブがかかった黒髪があった。ヘアスプレーで適度に固めている為、巻きが持続してくれるのが嬉しい。穏やかに口元へ笑みを浮かべた光秀が、そう口にしつつも崩れぬよう気遣いながら彼女のそれに触れた。くすぐるような男の指先につい口元が緩むと、ちょうど観ていたアニメがエンディングを迎えたらしく、光鴇がようやく意識を父母や兄へと向ける。
「みっただ、でてこなかった。でものぶにゃがさまとちちうえはでてた!」
「先程のあれはもしや石山本願寺との戦だったのでしょうか。敵の名がけんにゃでしたが……」
「随分物騒な顔をした猫だったな」
「光秀さんも観てたんですか……!?」
「目の端に映っていただけだ」
窮地に陥ったみちゅひでをのぶにゃがが助け、仲間と共にけんにゃと呼ばれる猫に戦いを挑むところで次週に続くらしい。意外と観ていた光臣に続いて、光秀までが感想を口にした事へ驚きを抱いた凪が目を瞠る。アニメを観終えて満足げな幼子が母の方を見やり、普段とはがらりと異なる格好をしているのに眸を輝かせ、ソファーを降りて飛びついて来た。
「ははうえ、かわいい!」
「ありがと、鴇くん。でも鴇くんの方が可愛いよ」
「ふふん!」
腰の辺りに抱きついて来た光鴇の頭をよしよしと撫でてやりながら、凪がはにかんだ。得意げに顎をくいっと上げて胸を張る子供へ笑みを零した後、彼女がローテーブルの上に置いていたパンフレットを手にする。目的地である動物園へのルート確認をした後、本日の宿泊先を改めてスマホでチェックした。
「今晩はこことは違う宿に泊まるから、荷物は駅のロッカーに預けていった方が良さそうですね」
「ああ、あの小さな蔵のようなものか」
「はい、宿に向かう直通のバス……大きな箱が出てるので、それに乗れればチェックインは問題ないと思います」