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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



まだ十月も初旬という事もあり、日中の気温は真夏とまではいかないが、そこそこ高い。薄すぎず厚すぎずといった生地のパーカー一枚でも十分だろう。出発前に紺地に白がアクセントで入ったスニーカーを履かせれば、光鴇の支度は完成だ。

「鴇くん可愛い!!!」
「とき、かわいい?」
「こっちのお洋服もよく似合うね!色んな服着せたくなっちゃう」
「とき、このきつねさん、おきにいり」
「ふふ、きつねさんも可愛いね」

思わず絶賛した凪に対し、光鴇がきょとんとした様子で軽く首を傾げた。乱世よりもある意味バリエーションを楽しめるとあって、母は上機嫌であった。買い物の折もあれこれと悩んだが、まだまだ着せてみたい服がたくさんある。褒められて嬉しそうな幼子が、短い足を持ち上げて足先を指した。本人は衣服どうこうよりも、やはり狐の靴下がお気に入りらしい。思わず笑みを零した凪が同意すると、櫛を手にして光鴇の傍に座る。

「髪型はどうしようか?下ろしたままだと、また女の子に間違われそうだし……」
「まちがわれるの、や」
「そうだよね、じゃあいつもより低めの位置で結っておこうか」
「うん」

櫛で綺麗に髪を梳き、頭部の中程の位置で、自身とよく似た癖のない髪を結紐でしっかりと結わえた。高い位置で結んでしまうと、先日のように周りから女の子と間違われる可能性もある。髪が長めである事がさして珍しくはない乱世と、価値観の少々異なる現代とでは見られ方も異なる為、出来るだけ配慮したいが、かといってばっさりと切るのは勿体ない。そんな訳で苦肉の策という訳だ。前髪を櫛で整えた後、凪が満足げに光鴇を見つめる。

「よし、鴇くんの準備は完成!」
「できた?とき、ちちうえとあにうえにみせてくる!」
「うん、ソファーで待っててくれる?」
「わかった、てれびにみっただでてるか、みてくるね…!」

ベッドから降りた光鴇が小さな子供用のもふもふスリッパを履いて振り返る。父や兄の元へ行くという子供に言って聞かせると、意気揚々とした調子で頷いた光鴇が部屋を立ち去っていった。

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