❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
やって来たのは光臣と光鴇の兄弟である。寝間着姿且つ、いつもはかっちりと結い上げている髪を二人共下ろしているところを見るに、起床した後でそのままこちらへ向かって来たのだろう。二人の眼は誕生日の祝いを述べる為か、ぱっちりと開いており、寝ぼけ眼を引きずっている訳ではなさそうだ。
「おはよう、臣くん、鴇くん」
「ああ、おはよう。それからありがとう」
凪が二人の息子達へ朝の挨拶を述べた後、光秀もそれに続いた。誕生日祝いに対しての礼もあわせて口にすると、いつもの癖なのか二人揃ってしっかり頭を下げて挨拶した後、光鴇が二人の居るベッドまで駆け寄って来る。
「とき、おめでとう、いちばん?」
「残念ながらお前達は二番目だ」
「むっ!」
期待を孕んだ眼差しを父へ向けると、光秀が微かに笑って幼子の頭を優しく撫でた。光秀側の広いベッド端へよじ登り、不満を露わに頬を膨らませている弟を見て、光臣が苦笑を浮かべる。
「言っただろう、鴇。一番は母上と毎年大概決まっている」
「な、なんかごめんね……」
「母上が謝られる事は何もありません。俺達は二番目でも十分嬉しいです」
ぶすくれた光鴇を見て、罪悪感に駆られた凪が眉尻を下げると、光臣が緩く首を振った。乱世においては政略結婚が主とされている。その中で互いに愛情を持って日々を過ごしている両親を、光臣は誇っていた。時折仲が良すぎるなと思う事は無くもないが、それが明智家の当たり前なのだから別に恥ずべき事でもない。
「鴇も父上と母上の仲が良い方がいいだろう?」
「うん、なかよしじゃないと、や。じゃあとき、にばんのいちばんね!」
「それはどういう順位なんだ……?」
「だからあにうえは、にばんのにばん」
「まあ別に構わないが」
兄弟の微笑ましいやり取りを目にし、凪がついくすくすと片手を口元へあてがいながら小さな笑い声を零した。時計をふと目にすれば、時刻は朝の五時過ぎ。支度をして出かけるには程良い頃合いだろう。