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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



凪からの愛に応えるよう、光秀が再度彼女の唇を掠め取る。抱き合う箇所から身体の芯が蕩けるような感覚に陥り、鼻先を軽く凪の柔らかな黒髪へ寄せた光秀が浅い吐息を漏らした。

(幸福だな、この上なく)

噛みしめるように胸中で言葉を零し、長い睫毛を静かに伏せる。腕の中に最愛が居る事へ暖かな感情を湧き上がらせていると、凪がそっと顔を上げた。

「本当は日付が変わってすぐ、おめでとうって言いたかったんですけど……」
「なに、無理もない。昨夜はその余裕を与えてやれなかったからな」
「!!!そういうのはいちいち言わなくていいんですっ」
「事実だろう。刻を忘れる程にお前を溺れさせる事が出来たのなら、俺としては本望だ」

些か残念そうな彼女の物言いを耳にし、光秀が伏せていた瞼を持ち上げて口元へ笑みを乗せた。何処となく意地の悪そうな雰囲気が滲んでいるそれに対し、凪が目を瞠って短く息を呑む。彼のその台詞で、昨夜の出来事が一気に脳裏へと反芻され、照れ隠しに眉間を顰めた。凪の身体を抱き締める片腕をするりと柔らかな掛け布団の中で動かし、指先でつつ、と背筋を腰から上に向かってなぞる。その意味深でしかない言い回しや行動に、凪が眉尻を下げた困り顔を浮かべた。

「うう……もうやだ、この人……」

(朝から何でこんなに色気爆発してるの……いつもだけど)

触れ方ひとつ、あるいは瞬きや視線の動きひとつですら無駄に色気を感じるというのは、彼女が胸中でぼやいた通りいつもの事なのだが。そのいつもの事にこうして毎度翻弄されている自分もどうなのだろう、と正直思わなくもない。本気で嫌がっている訳でない事など、光秀とて承知の上だ。だからこそ金色の眸にいっそうの色気を滲ませて眇め、背筋をなぞっていた指先を凪の顎にかける。くい、とそのまま上を向かせた後で彼女の顔を覗き込み、唇に綺麗な弧を描いた。

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