❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
「朝から随分と百面相をしていたが、一体何を思い出していたのやら」
「お、起きてたならそう言ってください…!光秀さんの狸寝入りは見分け難いんだから…!」
可笑しそうに告げる男に対し、凪が思わず文句を言う。今度こそはと毎度思う度、光秀にしてやられている身としては悔しくて堪らない。目下の密やかな目標は、光秀が狸寝入りしているか否かを見極められるようになる事だ。真っ白なシーツに映える淡い色の肌へ面持ちを緩ませ、額へ口付けをひとつ落とした光秀が、まるで悪びれた様子もなく言う。
「済まないな、可愛い妻の寝起きを堪能したくて寝入っている振りをしていた。お陰で有意義なひとときだったぞ」
「私は朝から恥ずかしくてどうにかなりそうです……」
「なに、これといって珍しい事でもないだろう」
「うう……反論出来ないのが悔しい……」
実際、こうして光秀にからかわれる朝は初めてではない。むしろ数え切れない程にあるくらいだ。学習しないなあなどと内心で溜息を漏らしながら小さく唸り、情けなく眉尻を下げる。やがて何かに気付いた様子で双眸を見開き、光秀の身体へと抱きついた。
「光秀さんっ」
「おっと、朝から積極的だな。俺としては喜ばしい限りだが」
音すら立たない柔らかなスプリングが、凪の動きに合わせて揺れる。真っ白なシーツの海に沈むしなやかな体躯に頬を寄せ、凪が両腕に力を込めた。おどけた言葉の割には、しっかりと彼女の身体を抱き留めた男が、同じく華奢な背へ回した腕の力をそっと強める。隙間なく抱き合った体勢のまま、華が咲き誇るような笑顔を浮かべた。
「光秀さん、お誕生日おめでとうございます」
この世で誰よりも最初に、光秀へ生まれて来てくれた事の祝福を伝える事が出来、満足そうな凪が最愛の夫の唇へと口付けを贈る。幸せそうな彼女を見て、光秀もまた柔らかな笑みを乗せた。
「ありがとう、凪」